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『仏陀』増谷文雄 著 角川選書ー18

『宇宙96%の謎』 佐藤勝彦著 角川ソフィア文庫

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『宇宙96%の謎』 佐藤勝彦著 角川ソフィア文庫

■ケブリッジ大学のS・ホーキングは、「無境界仮説」を提唱しています、宇宙が虚数(2乗してマイナスの値となる数値)の時間として始まるなら、「特異点」はもはや存在せず、したがって「神の最初の一撃」も必要ではなくなり、すべて物理学の法則によって宇宙の創生も語れるというのです。(20頁)

■最近、最もインパクトの大きな宇宙論的観測は、現在の宇宙には「真空のエネルギー」が満ちており、それに働く斥力によって宇宙は今、加速度的膨張をしているという発見です。(29頁)

■真空は物質がまったく存在しない空間と考えられていますが、量子論的真空では電子と電子の反物質である陽電子がペアでポッと生まれては、また消えてしまう、対(つい)生成と対消滅を繰り返す、激しく〝ゆらいでいる〟状態なのです。(29頁)

■しかし、同時に期待したいのは、従来の理論に矛盾、もしくはそれまでの理論では説明することのできない観測が出てくることです。知の世界の体積が膨らめば当然それだけ、その表面、フロンティアも広がるのは当然でしょう。実際、「暗黒物質(ダークマター)」「暗黒エネルギー(ダークエネルギー)」の問題は、依然として大きな謎です。私たちは、私たちの住んでいるこの宇宙を構成する物質の実に96%を占める「暗黒物質」「暗黒エネルギー」が何であるかを、今のところまったく知らないといっていいのです。(32頁)

■私はしばしば、学問の進歩を海底火山にたとえます。海底火山が海面下で成長しているとき、海上では何もわかりません。最後に山の頂上が海の上に現れたとき、通りかかった船から見えるのはその頂上だけです。しかし見えない海底にあって、それを支える基礎がしっかりしてはじめて、頂上は海面から出ることができるのです。(47頁)

■私がみなさんに申し上げたいのは、画家・ゴーギャンの問いかけの、「我らいずこより来るや?」という質問に対して、これまでは宗教やてつがくでしか議論できなかったものが、本当に科学の言葉で語れる時代になってきたということです。そして、それは単に理論としての話だけでなく、宇宙観測を通じても証拠づけられる時代になりつつあるのです。この本のメインテーマは、これに尽きます。(47頁)

■いずれにしましても、このように人間はずっと地球(世界)、宇宙の始まりについて興味を持ってきました。そして、宗教や哲学がそれに答えようとしてきたものともいえます。しかし、科学的にそれが議論できるようになったのは、ほんの90年前くらいからです。アインシュタインという天才によって、宇宙全体、時間や空間を科学として扱えるような理論が作られてからのことです。1916年、アインシュタインによって「一般相対性理論」が作られ、それによって物質を含んだ時空としての宇宙を、科学的に扱うことが可能になったといえます。

宇宙という字の「宇」は四方、上下の意と漢和辞典には載っていますから、空間を指します。「宙」は往古来今の意ですから、時間のことです。中国の古代暦の由来などが記された『淮南子(えなんじ)」という書物には、このように説明されています。(55頁)

■アインシュタインの残した有名な言葉に、「私にとってもわからないこと。それは、なぜわれわれが世界を認識できるかということだ」というのがあります。たしかに私たち人間は、宇宙の中では非常に小さな存在で、取るに足らないような小さな1つの生物にすぎません。それなのに、自分を含むすべての世界の起源だとか、構造などについて議論できるというのですから、本当に素晴らしいことです。(58頁)

■15年ほど前の夏、半年遅れで英国王立研究所のクリスマス・レクチャーが東京で開催されました。講師は『利己的遺伝子』の著者として知られているリチャード・ドーキンス、演題は「生命の進化」でした。彼は動物の眼の発生起源など豊富な例をあげながら、「神によってデザインされたように見えるものでも、自然選択という『幸運の塗り重ね』によって作られたのだ」と熱っぽく語りました。進化を山登りにたとえ、アイガー北壁のような切り立った斜面を一挙に登ることは不可能だが、迂回して1歩1歩ゆっくりと進めば頂上に立てることを、繰り返し説いていました。

自然界を支配する真理を理解し、それを応用することのできる生命体は、たとえ肉体的にみすぼらしくても、自然選択の中で生き抜くことのできる強者です。神経系の一部を脳へと発展させ、さらに大きな大脳を持つことにより、人類は最強の存在になったのです。アインシュタインの疑問である、「なぜわれわれは、世界を認識できるのか」に対して、「真理を知り得る生命体は自然選択の中での強者であり、人類が世界を知ることができるのは進化の必然である」とも答えることができます。(59~60頁)

■私たちの近くの宇宙から見ていきましょう。私たちは、太陽系の第3番目の惑星である地球に住んでいます。地球と太陽までの距離を普通、「1AU」といいます。Aはアストロノミカル、Uはユニットで、光で約8分かかる距離のことです。日本語では天文単位といい、およそ1億4959万7870キロになります。(63頁)

■今や、大宇宙の地図ができあがりつつあるのですが、宇宙全体を議論できるようになったのは、やはり1916年、アインシュタインによる一般相対性理論が発表されて、宇宙の「時空の構造としての科学」が始まってからだと思います。

アインシュタイン以前には、時間や空間は、はじめからあるものとしてしか考えることができませんでした。時間というのはよくわからないけれども、無限の過去から無限の未来にかけて、何か流れいっているもの……という程度の認識でした。(96頁)

■言い換えれば、この方程式は、左側の項が時間や空間の幾何学を決める量になっていて、右の項がその場所にあるエネルギーや運動量という物質の性質を表わしています。したがって、時空は物質の存在によって決められていて、時空が決まると、その中で物がどう動くかは物の動きを決める方程式で計算することができます。このように物質と時空は一体として考えなければならないことがわかってきたのです。(98頁)

■物質があれば、そのまわりの空間が曲げられるともいえます。そして、エネルギーがあることによってどの程度空間が曲げられるか、その強さを示しているのが右辺の係数8πG/C(4乗)は光速、Gはニュートンの万有引力定数です。ニュートンの万有引力定数Gが、ちゃんと組み込まれています。(99頁)

■アインシュタインは1917年、「アインシュタインの静止宇宙モデル」という方程式を考えました。それは人類の歴史が始まって以来、初の化学的宇宙モデルでした。アインシュタインは、とりあえず宇宙が一様であると仮定しました。「何十億光年、何百億光年彼方の宇宙でも、私たち地球の近くの宇宙と同じである。それをまず、仮定しなさい」といったのです。そして次に、宇宙には特別な方向もないということも仮定しました。この2つの仮定は後年、観測でも裏付けられるのですが、現代宇宙論はこの2つの仮定を、「宇宙原理」と呼び、宇宙総体を考えるときの大前提にしています。

ただし、彼は宇宙が膨張していることは考えなかったので、アインシュタインの方程式だけでは、宇宙は重力により縮んでいってしまいます。それを防ぐために宇宙定数(宇宙項)(-Agij)というものを自分の方程式の右項に足してやって、これによって万有引力で物が縮むのを押し返すという役割を持たせたのでした。

しかし、のちに宇宙が静的ではなくて膨張していることを、アメリカの天文学者E・ハッブルが示したことによって、アインシュタインは、あの有名な「人生最大の不覚だった」という言葉を残し、宇宙項を取り消したのでした。(99~100頁)

■さらにハッブルは、助手のM・ヒューメイソンの協力をうけて、距離と遠ざかっている速さの関係を、定量的に調べました。遠ざかっている速さは、ドップラー効果から比較的簡単に測定できます。水素や、ナトリウムなどの元素が出すスペクトル線が赤いほうにずれている度合いから、速度は測定できます。難しいのは距離です。彼は変光星を用いて、距離を測定する方法を編み出しました。

セファイド型変光星(30に値から200日で明るさが時間的に変化する星)の明るさは、周期が長い変光星ほど明るく輝いていることが観測からわかっています。つまり、距離を測定したい銀河の中にまずセファイド型変光星を見つけ、その周期を測定します。すると、その変光星の絶対的明るさがわかります。つまりその星は、何ワットの電球と同じということがわかります。電球を遠くに置けば置くほど、だんだん暗くなっている度合いから距離が計算できるのです。(102~103頁)

■これだけ一般化されたビッグバン理論ですが、現在の物理法則、実験、測定などをもってしても、解けない困難がありました。それは、次の4項目です。

(1)銀河、銀河団などの大構造の種を宇宙の初期に作るためには、地平線を超え

たゆらぎをつくらなければならない。

(2)宇宙はなぜ、地平線を超えて一様なのか?という地平線問題。

(3)宇宙はなぜ、観測でわかったように平坦なのか?という平坦性の問題。

(4)宇宙はなぜ、ビッグバン(火の玉)として生まれたのか?という宇宙創世の

問題。

(1)(2)の地平線問題について、簡単に説明します。これは、私たちの宇宙は、どちらの方向を見ても一様なのはなぜか、という問題です。宇宙の地平線とは、「因果の地平」のことを指します。宇宙のはじめのころ、ある地点Aから出た情報は、そこから発した光が伝えます。ただし、Aの情報が伝わるのは、この光の領域内だけです。量域の外にあるB点は、A点とは何の関係もない点です。このように、因果関係を持つ(情報を伝える)ことのできる空間的な領域を、「宇宙の地平線」と呼んでいます。

・・・(中略)・・・。宇宙が始まって30万年後の晴れ上がりの時刻には、A、B、C、Dの領域には互いに関係なく存在していました。ところが驚いたことに、宇宙からの背景放射は宇宙のあらゆるところから、まったく同じ強さでやってきているのです。情報交換もしていない、因果関係のないそれぞれの領域の宇宙背景放射がなぜ、示し合わせたように同じ温度なのか、というのが地平線問題です。

一方、現在の宇宙には、超銀河団とかグレートウォールというような巨大な構造が存在します。これらの構造は、宇宙の初期に仕込まれた物質密度の凸凹が次第に重力で成長し、つくられたと考えられています。しかし宇宙初期では地平線ははるかに小さく、地平線を超えた大きな凸凹を作ってやらねばなりませんしかしこのような大きなスケールの凸凹を作るには、「物質エネルギーを地平線の向こうから運んでこなければなりなりません。しかしそれは、実際には不可能です。

(3)の「平坦性問題」とは、この宇宙がなぜ、曲率をゼロとみたしていいほど平べったく見えるのか、という問題です。・・・(中略)・・・。

10(-44乗)秒とはプランク時間と呼ばれるものです。時間や空間も量子論的な不確定性原理に支配される時間で、これ以上細かな時間は意味がなくなります。観測結果では宇宙が平坦だという結論が出ているのに、ビックバン理論では、説明できないのです。(109~111頁)

■自然界にはいろいろな出来事、現象が起こります。たとえばリンゴが地面に落ちる、空を月が27日間で1周するなど……。そうしたときに、1つの法則でさまざまなことが説明できる、そのような法則を見つけるということが、ある意味では物理学だと思います。

つまり、何かが起こったときには、ある法則をもって説明し、また何か違うことが起こったときには、また別の法則で説明するという方法では、何の予言性もないということになります。そんな法則は、あっても意味がありません。何か1つの法則があることによって、いろいろなことを説明できる。知らないことも、こんなことがおきるのではないかと予言できるのは、簡単な法則がさまざまな現象を説明できるからです。いろいろな出来事が起こりますが、できるだけ1つの簡単な法則で説明したいのが、私たち物理学者の夢といえます。(115頁)

■実際、物理学の歴史は、天体の間に働く「天上の力」とリンゴを地面に落下させる「地上の力」を、ニュートンが統一し、重力という理論を作り上げたように、またマックスウェルによって電気や磁気、電流などの法則を統一し、電磁気力の法則が作り上げられたように、力を統一する歴史でした。物理学の歴史は、統一理論の歴史だったともいえます。そうして統一を重ね、4つまではまとめあげることができました。(116頁)

■磁気単極子とは、正確には「マグネティック・モノポール」と呼ばれますが、普通は略して、モノポールと呼ばれます。電気の世界では、プラスの電荷を持った粒子(たとえば陽子)とマイナスの電荷を帯びた粒子(たとえば電子)は、独立に存在できます。ところが、これが磁気になると、磁石をいくら分割していっても、N極の粒子とS極の粒子といったものを別々に取り出すことはできません。マックスウェルの電磁気学の方程式が電気と磁気に関して〝非対称〟に書かれるのは、このためです。(124頁)

■一番重要な問題は、真空が相転移することです。私たちは普通、真空を空っぽの空間だと思いがちです。しかし相転移の状態とは、物質が性質を変えることを指すのですから、何もないのに相転移を起こすことはおかしいと思うでしょう。

私たちが量子力学とか量子論を知らないときには、真空といえば何もない、空っぽの空間と考えていました。

ところが量子論という立場で真空を見ると、それは決して真空ではなく、あるところから電子と電子の反物質である陽電子がペアでポッと生まれては、また消えてしまう、対生成と対消滅を繰り返している状態なのです。〝量子論的真空〟は、決して何もない状態ではなく、激しく〝ゆらいでいる〟状態なのです。(128頁)

■「真空の相転移は、統一理論を作るための方便として作った理論で、一度、統一理論ができあがってしまえば、そのタネ、道具に使った真空の相転移は忘れていいのです。あなた方は真空が相転移を起こすようなイメージで宇宙に応用したりしているけど、宇宙論屋さんの素粒子を知らないゆえの誤解ですよ」

と批判されたものです。それは、ある流れでは自然な立場かもしれません。

しかし世の中というのは不思議なもので、方便として導入したものでも、結局はあとで見ると、それが物質の本質であったというようなこともあるのです。

ホーキングに「無境界仮説」は、この先どう評価されるかわかりませんが、計算のテクニックとして虚数の時間が導入されたことは確かです。今後もずっと計算のための方便に終わるのか、あるいはホ0キングが主張しているように、本当に虚数の時間は存在することになるのか。それは、さらなる学問の発展を待たないと結果は出ないでしょう。(139~140頁)

■水が氷になるときは摂氏0度です。そのときは水の状態と氷のエネルギーの状態は同じになりますから、どちらでも構いません。そして温度が摂氏0度以下に下がってマイナス4度ぐらいになったとき突然、水や氷になり始めます。これは「過冷却」という現象です。行きすぎてしまうということです。このときは本来の臨界温度のときよりも、さらに相転移が我慢をするのです。つまり、エネルギーの高い状態のまま、長くいるといえます。

同じことが、宇宙でも起こるのではないかとかんがえてみました。温度が下がってきても、相転移はすぐには起こらず頑張るのではないか、と。それは真空のエネルギーが高い状態で、しばらく我慢するのではないかということです。そして水が氷になるばあいでいうと、ある程度、温度が下がったところ(水の場合はマイナス4度)で、この水の状態が急に相転移し、一挙に氷ができるわけです。(146頁)

■この1次の相転移でとても大事な点は、このときに〝潜熱〟というエネルギーをたくさん出すことです。単純になめらかに変わっていくケースだと、我慢していませんのですぐに転げ落ち、ほとんど熱は出ません。ですから、この潜熱を出すことが、のちにインフレーションのときには、とても本質的で重要なことになったのです。そういった相転移が、このシナリオから出てきたわけです。

このシナリオをもう少し詳しくいうと、しばらく相転移が起こらないで我慢しているということは、真空のエネルギーがあると同じことで、宇宙は急激におおきくなるのです。(146~147頁)

■重要なのは、このように問題を単純化させて考えることです。あらゆる科学の分野はそうであり、複雑な現象があったときに、その本質をつかまえたモデルを作り上げることで、ものごとが解けるのです。それは科学者としてのトレーニングの中から可能になることだと思います。(180頁)

■古典物理学の世界から、一般相対性理論を超えて、今、私たちは「超ひも理論」の入り口にたどり着いた。私たちの住んでいる3次元の空間と1次元の時間の世界は、11次元の空間に浮かぶ3次元のような、驚くべき奇妙な世界だという。(242頁)

■高次元の空間にいるとして、この2次元の紙を、縦、横、高さと全部入っている膜だと思ってください。そしてあらゆる物質はこの膜の内部に閉じ込められていると考えてください。物質を表わすひもの両端は、必ずこの膜に固定されていて、その上で輪っかになっていると考えるのです。電磁気力を媒介する光子(フォトン)も、弱い力を媒介するボソンも、また強い力を媒介するグルオンも同様に、その両端は膜に固定されているので、膜の外に、これらの力はしみ出すことはできません。

ただ1つこの膜から飛び出すことのできるりゅうしは、重力子(グラビトン)です。図にあるように重力子は閉じた輪になっているひもで、膜に留められてはいません。ですから、膜の外にも出て行くことができるのです。重力子は、万有引力を媒介する素粒子です。つまり重力は膜の外にも伝わるのです。(243~244頁)

■その後も超新星を使って、宇宙の膨張速度を測る観測は続いています。すでに、このアメリカのグループのデータでも、私たちの宇宙にあるエネルギーの70%は、実は真空のエネルギーであり、あとの30%ぐらいが暗黒物質で、残りの4%が普通の星や私たちの体を作っている、すでによく知られている普通の物質なのだという結果が出ています。つまり、宇宙の中の4%程度の物質が、いわゆる天体や私たちの体を作っていることがはっきりしましたが、実に96%以上は、私たちが正体をあまりよく知られない〝もの〟である、ということがわかったのです。(252頁)

■そもそもインフレーション理論は、宇宙と「真空のエネルギー」は、切っても切れない関係にあります。インフレーション理論は、宇宙のごく初期に、水が氷になるように真空の状態が変化(相転移)するときに、信じられないほど急激な加速膨張(インフレーション)が起きて、その終了と同時に解放された膨大な真空のエネルギーが、現在の宇宙を満たす光(放射)や物質の元になったと主張しています。

観測でわかったのは、宇宙の土台を作った「真空のエネルギー」が、現在でもある程度残っていたということです。というよりは、実は私たちの宇宙は依然として、物質や光を合わせた量を上回る膨大な「真空のエネルギー」で満たされているというのです。

そして加速膨張が確認されたということは、今の宇宙は、誕生後のごく初期に経験したインフレーションに続いて、第2のインフレーションの時代に突入したことを意味します。もしそれが事実とすれば、これから宇宙はどのような進化の道筋をたどることになるのでしょうか。(256頁)

■認識主体たる知的生命体が生まれない宇宙は、存在しても認識されません。認識される宇宙は小さな宇宙定数を持った宇宙のみであり、私たちの住む宇宙はそのような宇宙です。人間原理という考えは、宇宙は人が必然的に生まれるようにデザインされたなど誤った解釈で紹介されることも多く、私自身もかってはあまり好きな概念ではありませんでしたが、量子宇宙論やインフレーション理論が必然的に、無量宇宙(Multiverse)を予言していることを考えれば、受け入れるべき考えではないかと思っています。(262頁)

■知の世界が広がるにつれ、新たな謎もうまれます。真空のエネルギー問題はまさに、インフレーション理論を支持しつつも、新たな謎を作り出しました。この真空のエネルギー問題をさらに遠方の超新星観測から迫ろうとする、SNAP衛星も計画されており、それが定数なのか、クインテッセンスのように時間変化するものなのかも、近い将来に解明できるかもしれません。(264~265頁)

■現在の観測は、時間的に変化しない「真空のエネルギー」に対応するアインシュタインの宇宙定数と矛盾しませんが、微小なものであれ、もし時間的な変化が発見されれば、ダークエネルギーの正体を解明する大きなヒントとなるでしょう。

理論的には、ブレーン(膜)宇宙論の立場からも面白いアイデアが提案されています。それは、現在の加速度膨張をダークエネルギーの存在によって説明するのではなく、100億光年というような大きなスケールでは、今、私たちが知っているアインシュタインの相対論が変形を受け、そのことによって加速度膨張が起こるのだとする説です。ダークエネルギーは実は存在せず、重力の法則、相対論が変形を受けるためだとするこの説は興味深いものですが、このような理論が他の宇宙論的な観測と矛盾しないのかどうかは、まだ分かっていません。(273~274頁)

2009年5月6日

-『仏陀』増谷文雄 著 角川選書ー18

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