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『仏陀』増谷文雄 著 角川選書ー18

『アインシュタインの宇宙』 佐藤勝彦著 角川ソフィア文庫

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『アインシュタインの宇宙』 佐藤勝彦著 角川ソフィア文庫

■そういう意味では、自然科学はすべて、量子論と相対論が支えていると言っても過言ではないでしょう。

では物理学は、いったいなぜ、科学の根源を支えるようなものになっているのでしょうか。物理学が目指しているのは、「私たちが住んでいるこの物質世界はいったいどうなっているのか、どのような構造になっているのか、それがどうして今あるように変化・運動しているのか」ということを、根本的なところから探求し、解明していくことなのです。

このような物理学による〝物質の探求〟の成果によって、いま、私たちの世界は、ごく小さな素粒子の世界に始まって、大宇宙~深宇宙まで広がっているのだという認識を持つことができました。(21頁)

■小さくは、「プランクの長さ」、10(―33)センチメートルから、大きくは宇宙の観測的な果てで、10(28)センチメートルの世界が広がります。つまり、小さいほうにもだいたい30桁、大きいほうにもほぼ30桁ぐらいの階層構造を、私たちは認識したことになります。(23頁)

■いろいろな現象に対し、その現象ごとに法則があったのでは、法則は法則でなくなります。いろいろな現象や運動を簡単な法則で説明できるように、一般的なルールをつくるために、物理学は長い間簡単な法則を求めてきました。それは物理の歴史でもあったのです。(24頁)

■ニュートンが発見した運動法則を基礎に組み立てられた「ニュートン力学」は、地球上の物体の動きや、太陽系・惑星の運行まで、その動きの規則性を単純な方程式で表わすことに成功しました。ニュートンの運動方程式を使えば、惑星や星の未来の位置、それに当時、望遠鏡で発見されていなかった未知の惑星・海王星などが存在することさえも予言できたのです。ニュートンは、1687年に出版された『プリンピキア(自然哲学の数学的諸原理)』のなかで、時間と空間について次のようにはっきりと規定しています。

 ◆絶待時間:その本質において、外界とは何ら関係することなく、一様に流れ、これを持続と呼ぶことのできるもの。

◆絶対空間:その本質において、いかなる外界とも関係なく、常に均質であり、揺るぎないもの。

そして、ニュートン力学は2つの法則でできています。

◆第1法則:慣性の法則……外からの力が作用していないとき、物体は静止しているか、等速運動をする。

◆第2法則:運動の法則……物体の加速度は、外からの力に比例する。(26~27頁)

■こうなると、物理学は、ニュートン力学と熱力学の体系ですべて解けるのではないか、仮に細かなブレが出たとしても、応用するだけで分かるのではないかと考えられた時代だったのです。(29頁)

■そして、ニュートン力学、熱力学、電磁気の法則――これら3つの分野の知見を駆使すれば、もう世の中のことはすべてわかる、予言できるというような雰囲気になっていったのです。「もう物理学は終わったんだ……。あとは、いろいろな分野に応用するというのが学問なんだ」というような状況になっていったのです。(30頁)

■ところが実は当時、2つの暗雲が物理学の前途に立ちこめていたのです。晴れて入る空に、2つのちょっとした雲がある。多くの人は、「たいした雲じゃないだろう、熱力学と電磁気学、ニュートン力学を使えば、その謎も解けるんじゃないか」と思っていたのです。

その2つの暗雲のうちの1つは、光を伝える伝達物質であるとされた〝エーテル〟が観測で見つからないことと、光速度はどうも変わらない一定の値を持つということでした。そしてもう1つの〝暗雲〟とは、古典力学を用いて計算しようとすると、どうしても発散してしまう「黒体放射」のエネルギーの謎でした。しかも熱力学と電磁気学が予言しているように、あらゆる光の波長が出てきていいはずなのに、実際は出ていない……。

2つの暗雲は、いずれも〝光に残された2つの謎〟だったのです。しかも、光を波だと考えたとき、この2つの謎に行き着いてしまうのでした。(30~31頁)

■まさにこの2つの暗雲から、20世紀になって現代物理学を支えるような、相対性理論と量子力学という2つの大きな柱が生まれてきました。(31頁)

■以上述べてきたように、プランクの「エネルギー量子仮説」は、物理学のなかに初めて〝飛び飛び、不連続〟という考えを持ち込んだ画期的な仮説でした。(40頁)

■このプランクの「エネルギー量子仮説」は、光がエネルギーを、ある固まりで受け渡しをするという考え方です。けれども彼は、光そのものがごく小さな粒状の物質でできているとまではいわなかったのです。

それでアインシュタインは、プランクの仮説から5年後、その考え方を取り入れつつ、さらに一歩進めて、「光はエネルギーを持った粒の集まりと考えられる」というアイデアに行き着きました。このアイデアを発展させて、アインシュタインは当時、やはり謎とされていた「光電効果」という現象を見事に説明しました。2つの暗雲のうち1つは、アインシュタインによって「量子力学」の基礎を構築する道につながっていったのです。(41~42頁)

■仮に、光に「速度合成の法則」や「運動の法則」という考え方が通用しないとなれば、「宇宙のどのような運動も説明できる」とされていたニュートン力学に、重大な欠陥があるということになります。当時の物理学者たちは、この実験結果をニュートン力学で何とか説明しようとしましたが、うまくいきませんでした。(46頁)

■マクスウェルは、「光とは、実は電磁波じゃないか、つまり、電気や磁気の波にすぎないのではないか」ということに、気がついたのです。(47頁)

■光の媒質であるエーテルが見つからないことと、光の速度が常に一定に見えること、この2つの〝現実〟は、19世紀末から20世紀にかけての物理学上の最大の謎だったのです。

この謎に対してアインシュタインは「光量子論」のなかで、光の正体が光量子(光子)というごく小さな物体であることを示しました。光を波でなく物質と考えれば、エーテルなどとという媒質がなくても、真空の宇宙のなかを進んでいけるのです。

また、光速度の謎については、特種相対性理論という革新的な発想に思い至り、見事に解明しています。

光速がどの慣性系でも同じ値であることを「光速度不変の原理」といいます。この実験から17年後、アインシュタインは、マクスウェルの方程式をはじめ、物理学の法則はすべての座標系(慣性系)で同じでなければならないことをはっきりと認識し、特種相対性理論を作り上げたのです。(52頁)

■これをまとめると、光の強さと振動数の関係は、光量子の「量と質」の関係(違い)に相当するのです。

このようにアインシュタインは、それまで波だと考えられてきた光を「光量子」(現在では光子(フォトン)と呼んでいます)という粒の集まりだと考えることで、光電効果の仕組みを解き明かすことに成功しました。(57~58頁)

■このように、光は粒子でもあり、また波でもあるという不思議な二重性を示すことがわかってきました。ここでいう二重性とは、たとえば粒が波打って動いたり、粒の集まりが全体として波のようにうねるといったことではありません。光はちょうどジキル博士とハイドのように、従来の物理学(古典物理学)ではまったく別のものとして取り扱って来た「粒としての性質」と「波としての性質」を併せ持つ存在であることがわかり、古典物理学のいわば〝異端児〟だということがわかりました。(58~59頁)

■このように、特種相対性理論は、新たな真理を次々と示していきました。この特種相対性理論の本質的な意義は、「時間と空間を統一した」ことにあります。私たちは普通、時間と空間はまったく別なものだと思っていますが、特種相対性理論は、両者の間に密接な関係があり、1つの時空としてまとめて考えられることを明らかにしたのです。

一方、物体に力を加えると、スピードが変化したり、進む向きが変化します。こうした運動を、加速度運動といいます。一般相対性理論は、観測者自身が加速度運動をしている場合でも適用できる理論です。(64~65頁)

■ニュートン以来、時間は宇宙のどこでも同じように経過していくと考えられていました。こうした時間を「絶待時間」といいます。けれどもアインシュタインは、絶待時間をを否定し、それぞれの観測者が持っている「固有時間」こそが〝本当の時間〟だといったのです。(62頁)

■時空が曲がった世界を記述しようと思うと、数学の道具としては、曲がった空間の数学を使わなければだめだということになります。これは、本当に驚くべきことなのですが、アインシュタインが登場する50年くらい前から、(時間は数学では考えていないのですが)数学の問題として曲がった空間、つまり、球面幾何学の研究が進んだのです。(84頁)

■このように、「宇宙飛行士の足が床に着いている」という状態を引き起こす点で、重力と観測者の加速度運動が、同じ役割を果たしているといえます。これを「等価原理」と呼んでいます。重力と加速度が等しい価値を持つならば、観測者が加速度運動をすることで重力が働いているような状態を作り出したり、逆に存在して居る重力を消したように見せることも可能になります。重力は加速度運動によって作られる「見せかけの力」であるとも考えられます。(89頁)

■もし重力が加速度運動によって作られる「見せかけの力」なら、加速度運動を行うことで重力の影響を完全に消せるはずです。ところが、そうはいきません。(90頁)

■この時、機内の人が両手に1つずつボールを持ち、無重力状態になってからボールを手放すと、ボールも無重力状態になり、フワフワ浮かんでいますが、そのうち2つのボールが少しずつ近づき、間隔が狭くなっていきます。2つのボールが近づくのは、自由落下運動(加速度運動)によっても消えずに残っている重力の影響のためです。つまり、二つのボールはそれぞれ地球の中心に向かうため、ボールとともに落下する人から見れば、次第にボールが近づくように見えるのです。(90頁)

■アインシュタインはこの考えを重力に当てはめて、革命的な説明をしました。「重力による落下とは、曲がった時空の中を物体が運動することである」というものです。(91頁)

■ボールを載せると、2次元のトランポリンの表面がゆがむように、アインシュタインは「物質があると、その周囲の空間(正しくは時空)は曲がる」と考えました。重力とは、時空の曲がりそのものだと推論し、さらに、重力の働く仕組みを、「物質が時空を曲げ、その曲がった時空の中で物質が運動するためだ」と説明しました。(92頁)

■奇妙な振る舞いというのは、一度でもこの半径の内側に落ちてしまった場合、光やあらゆる物質も外に出ていけなくなるような時空構造になっていることがわかったのです。しかも、シュバルツシルト半径よりも内側では、時間の軸と空間の軸が逆転しているのです。普通、tという座標を使って時間を表わしていますが、その半径の内側の領域に入ると、tという座標は空間のように振る舞います。(110頁)

■粒子と反粒子が出会うと、2つの粒子はエネルギーを放って消滅し、無に帰してしまいます(対消滅)。逆に真空中に莫大なエネルギーを与えると、何もなかったはずの空間から粒子と反粒子のペアが出現します(対生成)。(135頁)

■一般相対性理論によればエネルギーは質量が形を変えたものですから、マイナスのエネルギーをもつ粒子を飲み込めば「マイナスの質量を得た」ことになり、ブラックホールは質量を減らすことになります。しかもこの際、ペアだったもう一方の粒子がブラックホール(の近く)から飛び出してくるので、これを「ブラックホールは粒子を放出して質量を減らした」、すなわちブラックホールが蒸発したと考えることができます。(135~136頁)

■また、ミニブラックホールがどんどん蒸発して「極小」の大きさになった時、どんなことが起こるのかよくわかっていないのです。この時は、ブラックホールそのもの(つまり時空そのもの)に量子論を適用する必要があるのですが、量子論と相対性理論を合体させた「時空の量子論」(量子重力理論)はまだ完成していません。さらに、ブラックホールが蒸発した後には何が残るのか、あるいは何も残らないのかも、まだわかっていません。これを解き明かすためにも、やはり量子重力理論の完成を待つ必要があります。現代物理学にとって「究極の理論」である量子重力理論を完成させるうえで、ブラックホールの蒸発という現象の解明がその鍵になるとみられており、のちに述べる「LHC」という巨大加速器での研究結果が待たれるゆえんです。(136~137頁)

■19世紀末には物理学はほぼ完成したと考えられており、ニュートン力学とマクスウェルの電磁気学を使えば、説明できないものはないとまで言われていました。とりわけ、マクスウェルの電磁気学は、「光=波動説」の集大成ともいえるものでした。

ところが、黒体放射のスペクトルなどの研究を進めていくうちに、「量子」は飛び飛びの値をとりうるとする考え方や、物質が粒でもあり波でもあるという二重性を示すことなどが次第にはっきりしてきました。これは、古典物理学ではまったく説明できない、物理学場の大発見でした。量子の誕生は、従来の物理学(古典物理学)が決して〝完璧〟ではないことを示す歴史的な事件でした。(140頁)

■2人(岡野注;プランクとアインシュタイン)の「量子論」によれば、光は波でなく、「ある時は波であり、ある時は粒である」、または「波でもなく、粒でもない」という〝量子〟であると考えなければならないのでした。(145頁)

■マクスウェルの電磁気学では「電子が回ったときに光を出す」と説明しましたが、ボーアの理論では「電子が遷移したときに、光を出す」というようになります。

ここで、ボーアの仮説を示しておきます。

①原子には、ある飛び飛びの軌道があり、電子が軌道を回っており、その時には光を出さない。このような状態を「定常状態」という。

②電子が軌道から軌道に遷移するとき、光(光量子)を出す(または吸収する)。

③電子が軌道上を回っているとき(定常状態)は、古典物理学に従う。(147~148頁)

■この方程式のなかのi(imaginary=想像上の、という意味の頭文字)は、虚数を現す記号で、虚数iは2乘すると-1になる数字、つまり√-1のことです。虚数の反対は実数で、実数を2乘すると、もとの実数がプラスの数であれマイナスの数であれ、必ずプラスの数になります。波動関数ψ(プサイ)にこの虚数が入り込まない限り、アインシュタインの関係式と、ド・ブロイの関係式が同時に満足されないのです。(154頁)

■詰まるところ量子論は、《自然や物質がただ1つの状態に決まらず、非常に曖昧であること、またその曖昧さこそが自然の本質であること》を示したのです。(172頁)

■つまり彼(岡野注;アインシュタイン)は量子論は自然現象を〝一定のレベル〟では正しく表現しているが、完全ではないため、確率などの考えを持ち出さざるをえないのだ――と評価していました。量子論は完全かつ無欠の最終的な理論ではなく、自然界にはまだ、私たちが知らない「隠れた法則」があり、その法則の中で、ある要素(変数)が電子の発見位置をただ1つに決めているのだ、と考えたのです。アインシュタインは、この「隠れた変数」というテーマに基づいて、量子論を完全なものと考えるボーアたちと、しばしば論争を行っています。アインシュタインは論争のたび「神はサイコロ遊びを好まない」という言葉を繰り返し、量子論の不完全さを主張したのです。

ところがアインシュタインは、量子論の決定的な誤りを指摘したわけでもなく、自説の「隠れた変数」を十歳に提出できなかったので、ボーアとの論争はいわばボーアの「判定勝ち」に終わったようです。(172~173頁)

■アインシュタインは結局、アスペの実験結果を知ることなく亡くなりました。しかし生前、「量子論の言い分が正しいのであれば、月は我々が〝見た〟からそこにあり、我々が見ていないときにはそこにはいないことになる。これは絶待に間違っていて、我々が見ていないときにも、月は変わらず同じ場所にあるはずだ」といったそうです。

確かに量子論を突き詰めて考えれば、誰も月を見ていない場合、月はある1ヶ所にはいないことになります。誰かが見たときだけ、月の位置が確定できるのです。量子論が述べる世界観は、私たちの常識にはなじまないのですが、アスペの実験は、それもまた真実だといっているのです。(178頁)

■アインシュタインは、自分の方程式が最初にこの謎を解く方程式になるのだと考え、宇宙は「4次元空間にある3次元の表面を持つ球の表面」だという、いわゆる「アインシュタインの宇宙モデル」を考えました。その第一原理で、「宇宙は一様であり、等方である」としました。ここでいう一様とは、まず密度に凸凹はないということであり、等方というのは、密度は同じだとしても、ある方向に物質が流れているとか、そういうふうな特別な方向はないし、いわゆる一様と等方を仮定したのです。今日でも「宇宙原理」といわれている仮定をまず行うのです。このように仮定した条件でアインシュタイン方程式を解いて、宇宙の構造や型を決めてやろうと思ったのでしょう。(192頁)

■フリードマンは、その解の安定性を詳しく調べることによって、その解が表わす宇宙が、膨張と収縮のつりあった静止状態にとどまることはできず、宇宙は膨張するか収縮するかどちらかの運命にあることを示したのです。(201頁)

■このエディントンの報告には、《アインシュタインの静止宇宙は決して安定したものではなく、微小な揺らぎによって必ず膨張に転ずること》が明記されていました。ですからエディントンもすぐ、ルメートルの論文の重要性を見て取ったのです。(215頁)

■1935年に書かれた著書『科学における新しい道』でエディントンは、次のような表現で、一般相対性理論における宇宙定数の意義を強調しています。

《万が一、(一般)相対論が不評を買うようなことがあっても、宇宙定数がその最後の砦となるだろう。宇宙定数を落すことは、宇宙の底をたたき割ることにつながるのだ》(217頁)

■ここから彼(岡野注;ルメートル)は「原始原子(Primeval Atom)の概念を打ち出しています。宇宙のすべての元は、この原始原子だと主張しています。(219頁)

■このように、「ルメートル膨張宇宙」にせよ、また原始原子から始まる初期宇宙についての考察にせよ、次章で紹介するビッグバン宇宙論の仕方そのものでした。1930年代の話ですから、ルメートルはそれ以上細かく議論することはできませんでしたけど、彼の考え方が宇宙が火の玉状態から始まったというビッグバン宇宙論のひとつ前の段階にあったのは間違いない事実でしょう。(220頁)

■〝宇宙の晴れ上がり〟以降も、宇宙黒体背景放射が他のなにものの影響も受けなかったとすれば、引き続き進行する宇宙膨張によって温度は低下していき、その時々の温度の黒体放射として宇宙をくまなく満たしてきたと考えられます。そしてその残照は、今日の宇宙をも満たしているはずです。(234頁)

■次に、4つの力を強い力の順にまとめておきます。

①強い力:陽子のなかでクォークとクォーク、あるいは原子核のなかで陽子や中性子を互いに強力に結びつけている力。力の及ぶ距離は10(-12)センチ。はたらく素粒子とはたらかない素粒子がある。湯川秀樹博士が発見した。

力を媒介する粒子……グルーオン

②電磁気力:電気を帯びた粒子に対してはたらく。原子どうしを結合して分子を形成したり、原子核と電子から原子をつくったりする。これも強さは距離の2乗に反比例。マクスウェルが理論を完成した。

力を媒介する粒子……光子

③弱い力:放射能や星の内部の核反応(原子核のベータ崩壊など)に関係する。力のおよぶ距離はわずかに10(-16)センチ。

力を媒介する粒子……W粒子、Z粒子などのウィーク・ボソン

④重力:あらゆる粒子にはたらくが力は非常に弱い。強さが距離の2乗に反比例するので、理論的には無限遠方まで及ぶ。重力(万有引力)の法則はニュートンが発見した。

力を媒介する粒子……グラビトン(未発見)(252頁)

■つまりヒッグス粒子は、宇宙が誕生した時には水蒸気のように真空を満たしていたのですが、すぐに水や氷のような状態に変化したと、物理学者は考えています。これが「相転移」といわれている現象です。そのため、多くの素粒子は氷海を進む砕氷船のように、ヒッグス粒子の抵抗を受けることになり、この動きにくさが質量として観測されることになります。光子のように光速で飛ぶ質量ゼロの粒子は、抵抗を受けないスケート靴を履いているようなものです。温度が下がると水蒸気が水になる(水の相転移)現象とよく似ているので、これを「真空の相転移」と呼びます。(259頁)

■標準模型は、「相互作用を記述する運動方程式がゲージ変換に対して不変」であるように定式化されています。「ゲージ(gauge)」とは「物差し」という意味です。ゲージ変換に対して不変であることを「ゲージ不変』と呼び、ゲージ不変生に基づく理論を「ゲージ理論」と呼びます。(261頁)

■電磁気力では電荷、「弱い力」ではウィーク荷に相当するものを考えてきましたが、「強い力」の主役は、〝色荷(カラー荷=カラーチャージ)〟です。これは南部陽一郎氏が提案し、ゲルマンが命名したことに基づきます。もともとこのクォークには3種類あって、3つ全部混ざり合うとそれがなくなってしまうところから、3色混じると「白」色となる光の3原色に似ているため、色荷という名前がつけられました。(279頁)

■温度が下がると水蒸気が水になる、逆に温度が上がれば水は水蒸気になる(水の相転移)のように、同じ物質が物質としての同一性と保ちながら、その存在のあり方(存在のフェーズ、様態)を変えることを意味します。この現象を〝真空〟に適用して、これを「真空の相転移」と呼びます。私たちの宇宙は、ビッグバンに先立つ宇宙創世の瞬間に存在した、ほんのちょっとの「対称性の破れ」から生まれた、とされています。物質が創られたのは、宇宙創世の瞬間の「真空の相転移」によって生まれたと考えられています。「真空の相転移」とは、〝真空〟という「物質のまったく存在しない空間」が、その存在のフェーズ(様相、もしくは相貌)を変えると、そこにたちまち物質が生成される、ということです。(288~289頁)

■この粒子が壊れてしまった後の宇宙には、クォークが10億個と1個、反クォークが10億個存在するというほんのわずかな差が生じてきます。宇宙の温度が下がるにつれ、10億個のクォークと10億個の反クォークはすべて対消滅して光となり、わずか1個だけ残ったクォークは、陽子や中性子を作り、今の宇宙を作った。そのため、私たちの宇宙には反物質は存在しない、というのです。確かに、現在の宇宙で陽子や中性子などの物質粒子の数と光の粒子の数を比べると、物質粒子1個に対して、光粒子は10億個程度になっています。(297頁)

■そうすると、物質宇宙、反物質対称宇宙ができます。対称宇宙というものができるわけです。

しかしながら、このモデルにはとても大きな困難があります。物質でつくられた領域と反物質でつくられた領域が平等に存在している対称な宇宙は、時間がたつと消えてしまいます。これらの領域は、時間がたてば因果関係でつながりますから、物質の領域と反物質の領域がぶつかります。物質と反物質は合体して消えてしまい、光になってしまいます。再びバリオン数0の元の木阿弥の宇宙に返ってしまうのです。これでは、いけません。

そこで、宇宙がインフレーションを起こすと仮定します。こういう領域自身、それぞれインフレーションではきょだいに大きくなってしまうのですから、もはや、あとで消そうと思っても消せないほど巨大な宇宙になってしまいます。もちろん、このシナリオでいいますと、物質宇宙と反物質の境界ではいくらかγ(ガンマ)線が生まれているかもしれません。しかし、それは私たちが見ている宇宙から見ると、はるかかなたの遠いところで起こっていること――そういうふうになるのです。インフレーション宇宙理論によれば、物質と反物質が同時に存在している対称宇宙が、消滅せずに存在できることになります。(299~300頁)

■宇宙定数とは、第5章でみたように、アインシュタインが静的で有限な宇宙を生み出そうと重力場方程式に持ち込んだ宇宙項のことです。アインシュタイン自身は後にこれを放棄してしまったものの、ルメートル宇宙などにみられるように、初期の宇宙を考える場合、その存在は無視できないものでした。それが、場の量子論による真空の〝再発見〟によって、復活したのです。(312頁)

(2011年5月23日)

-『仏陀』増谷文雄 著 角川選書ー18

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