岡野岬石の資料蔵

岡野岬石の作品とテキスト等の情報ボックスとしてブログ形式で随時発信します。

テキストデータ 全元論 著書、作品集、図録

(26)現在は未来の原因である

投稿日:

(26)現在は未来の原因である(120頁)

僕が「今、ここ」に居るという、存在のラインを過去に遡ると、宇宙のビッグバンまでリンクは繫がって辿れるように、このラインの未来を考えたら、僕の残す存在のラインは、世界のどこかでずっと続いていくわけだ。僕の残したものは残る。善因は善果として残るし、悪いことをしてゴミのような害毒を流しても、それで終わりではなく、悪因は悪果として残る。その人の為したことはラインとして未来に消えずに続いていく。そうならば恐ろしいではないか。このことを知れば、悪い行為をすれば後悔だらけになってしまう。恥ずべき行為をして、たとえば振り込め詐欺をしても後悔だけだ。恥ずべき行為があれば恐ろしい。詐欺をして、たとえ見つからなくても、それで手に入れたお金は、その後の本人の人生や、家族や周りの人の人生に悪い結果をもたらすだろう。その生き方の因と縁は、一回も消えない。これは、この不生不滅のラインを知れば実に恐ろしいことだよ。

誰でも恥ずかしい行為があるし、僕にもある。恥ずかしい行為はときどき思い出すといたたまれない。少ないからいいとしても、少なくとも悩まされるのに、人に知られたくないことを山ほどかかえており、人を騙すような生き方を山ほどしてしたら、本人の身のうちにプリントされるのであってじつに恐ろしい。全元論を理解したら、そんな行為は、ハナからできない。

自分が詐欺をした人間だとしたら、懺悔してこれから善い行為をするんだね。仏教というのは過去の因縁で現在があるとするから、自分が不幸な境遇に生まれたり身体に障者をもって生まれたりするのは、親の因果が子に報いということで、差別を肯定し固定化しているのではないか、という説がある。しかし、そうではない。たしかに悪因は悪果をもたらすが、ここが重要で、現在は未来の原因なのだ。

ここから未来は、つまりここから善行を積めば、すぐに自分に良い結果が出るとは限らないけれど、子どもの代に善い結果をもたらせたりする。あるいは何らかの善因は善果に通じる。過去は後悔してもどうこうしようもない。しかし多くの場合に、年をとると現在を未来の原因として捉えない。若いときは、今の勉強は将来の結果になると考え努力するが、ある時から、現在を未来の原因としなくなる。

定年後の普通の生き方は年金で生活している。過去の結果として今日を生きている。昨日も今日も明日も、過去の結果だけで生きていて、未来に向かっての行為は何もない。だからこそ孫が可愛い。子や孫は自分が原因だ。ある程度結果の見えている自分の子供と違って、孫は未来のかたまりだから可愛い。まだ結果の出ない未来のかたまりが孫であって、自分の未来は終わってしまい、過去の結果だけで生きている。年金とか健康とかはこれまでの結果である。

未来のかたまりが現成すると、つまり孫は可愛いに決まっている。しかし、年をとってもいつの時代でも、死ぬまで未来に開いた生き方をすればいいのだし、すべきだ。過去の罪を犯した人はどうしたらいいかというのは、仏教の問題に必ず出てくるテーマである。罪を犯した人は、懺悔したら、そして修行したら悟れますか等々。親が罪を犯しても、子ども本人にとっても同じことである。

自分がこれから、未来の原因として今日を生きていけば、善行は自分の未来にも蓄積されるだろうし、自分の子どもの原因ともなる。過去は仕方ないというよりも、生まれたというだけで、父親が悪かろうが、母親がだらしなかろうが、もう生まれただけで自分がこの世に現成したなんて、何ともありがたい。こうやって幸運に、しかも日本という素晴らしい国に生まれたのに、詐欺をしたり何かを企むという、自分の欲望をみたすために他人を犠牲にする、そもそも、それが本人の不幸の原因というわけだ。それで不幸になるのは当たり前の話だ。生活保護を不正受給したところで、パチンコをするくらいだ。そんな一生はつまらないね。自家用ジェットで愛人とバカンスを南の島で過ごすことが、最高の夢だなんて、生活保護を不正受給して遊んで暮すのとあまりかわらない。そんな人生は、つまらない。

-テキストデータ, 全元論, 著書、作品集、図録

執筆者:

関連記事

(18)プレ印象派・コロー

(18)プレ印象派・コロー(57頁) 日本橋画廊に絵を持って行き始めて、毎月何点か描かなければならなくなった。常時、作品を生み出すためには、グランドモティーフを決めなければ、とても続かない。それで、風 …

(13)方法論

(13)方法論(45頁) こういう技法を少し教わって、その方法を使って自分で色々考える。それ以後は、教わるのではなく、方法論を知れば、そういう方法でやればすむわけだ。推論の糸口は、教わって分っているの …

(31)方法論(二)

(31)方法論(二)(96頁) 問題は、その方法論が大事なのだ。ある事象に対して、内部というか下部というか、その現象の構造にどうアプローチをして解明するのかの方法が問題なのだ。 僕は子供のときの体験か …

美術雑誌『美術の窓』に寄稿した原稿

美術雑誌『美術の窓』に寄稿した原稿です   セザンヌ、ルノワールに続いて今ゴッホ展も開催されていますが、各展の人気と会場の熱気は美術館の外の美術シーンとは対照的です。なぜに現代の画家の絵は人 …

(64)「これは何だ」は反語

(64)「これは何だ」は反語(230頁) ピカソが、画面に1本の線を引いて「これは何だ。これは何だ…」と独り言をつぶやきながら絵を描いているフィルムがあるそうだ。その事を引用して野見山暁治氏(1920 …