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(13)方法論

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(13)方法論(45頁)

こういう技法を少し教わって、その方法を使って自分で色々考える。それ以後は、教わるのではなく、方法論を知れば、そういう方法でやればすむわけだ。推論の糸口は、教わって分っているのだから、自分で一つずつハードルを乗り越えていけばいいわけだ。

美術クラブ全体が、そういうアカデミックな雰囲気だった。従来の芸大の伝統的なものを踏襲したシステムがあるわけだ。クラブの生徒全員がそれをやっていた。先生が教えるというより、みんなが芸大受験のための自分なりの考えを、お互いに影響し合っていた。

芸術の分野の中で、なぜ美術かというと、その頃小説を書きたいという気持ちも僕にはあった。映画も文学も美術も、芸術関係なら何でも好きだった。芸術関係というよりも何でも好き。何でも知りたい。世界を知りたい。子どもの時からずっとそうだった。

勉強といっても、教わって覚える試験のための勉強には興味がなかったけれど、自分の知識欲を満たす勉強は面白いと思った。未知の世界を知るということは面白いわけだ。次から次と、構造が発見できる。構造さえ分れば、パタパタと次が見えて、今までは不可能だった事も、自分の能力内に引き寄せることができる。

その中で小説はというと、高校の国語の先生が、ある年の芥川賞の候補に上ったという事だった。雑誌に入選作品が出ているというので、買って読んだ。それで「僕も書いてみようかな…」と思った。

一度実際に書いてみようと、色々考えるとストーリーは浮かぶ。しかし、一行も書けなかった。

何故かというと、ある場面を文章で客観的に描写するのに、どういう「文体」が正しくてベターなのか、皆目分らない。たとえば、「彼女は、悲しそうな目で僕を見つめた」という文章の中で、「悲しそうな目」に引っかかるのだ。悲しそう、と思っているのは僕の方の感想だから、本当に悲しいのかどうか断定できない。僕の視点から見れば「彼女は僕を見つめた。悲しみをこらえているようだった」、彼女の視点からだと「私は彼を見つめた。悲しくて、少し悔しかった」、客観描写だと「A子はB男を見つめた。唇を噛み、目は少し潤んでいた」。一つの状況をいくつもの文体で表現できる。その中の一つをどうやって選択したらいいのか。それに、そもそも小説全体をどういう視点で設定しで書いたらいいのか分らない。

後に知った正岡子規は、写生を良しとした。その視点で、写意はしない、意の部分は描写から外し写生に徹する。こういう、世界を描写する視点を、その頃知っていたなら…。(画家になっても、「物」を描くのか「事」を描くのか、という選択は大問題で僕は勿論「物」を描くべきだと思っている)

そんなことで、これでは僕には小説は書けないと思った。

論文の書き方にも、方法はある。自分の考えを、正確に第三者に伝達するには、それなりの方法がある。単に「私はこう思う」とか、だらだらやっていても、いい作品にはならない。

映画だって文法があるし、演劇、音楽、美術、お笑い、すべての表現に文法がある。文学だって何かそういうものがあるはず。そこに一生を賭けても、一人でこんな事をやっていては、僕には文学は無理だなと思った。

文体の事をお構いなしに、文学をやる人もいるだろう。特に現代はポスト・モダンの風潮で、認識(文体)もイズムもコンセプトも文章の背後に措定せず、何でもアリの表現は、それがいいのかどうか僕には分らない。この歳になると、漠然と分るけれども、当時はとてもこういう世界の中では、僕は生活していけないだろうと思った。

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