■「父と子供」
あはれなる子供が、夢の中ですすり泣いて居た。
「皆が私を苛めるの、白痴(ばか)だって言うの」
子供は実際に白痴であり、その上にも母が無かった。
「泣くな。お前は少しも白痴じゃない。ただ運の悪い、不幸な気の毒の子供なのだ」
「不幸って何?お父さん」
「過失のことを言うのだ」
「過失って何?」
「人間が、考えなしにしたすべてのこと、例えばそら、生まれたこと、生きていること、食ってること、結婚したこと。何もかも、皆過失なのだ」
『宿命』萩原朔太郎より2006年7月7日