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『仏陀』増谷文雄 著 角川選書ー18

『ニコラ・ド・スタール』 カタログ 1993年東武美術館

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『ニコラ・ド・スタール』 カタログ 1993年東武美術館

■ジャン=リュック・ダヴァルは、ニコラ・ド・スタールがマティスの《赤いアトリエ》と《ダンス》を見て重大な衝撃を受けたことを指摘している。スタールはこれらの作品をそれぞれニューヨークとフィラデルフィアで見たのである。この年老いたフォーヴ(野獣)は以前からスタールを魅了していた。1949年にスタールは、ピエール・ルキュイールに宛てて、マティスの「……独特な、それは独特なマティエール」について書き送っている。しかし、とりわけ1952年のサロン・ド・メに出品されたマティスの《王の悲しみ》は、やはりピエール・ルキュイールに宛てて、自分にとってマティスが何を表わしているかを書いている。

「芸術においては価値あることは二つしかありません。

1.権威のきらめき

2.ためらいのきらめき

それのみです。一方は他方から生まれますが、究極において両者は明確に区別されます。84歳のマティスは紙の切れ端でさえきらめきを得ることに成功しています」。(104頁)

■スタールはこう言っている。「絵画で唯一真険に追究すべきは、奥行きである。絵画は組織立てられた空間である」。(112頁)

■1954年11月19日、アンティーブからニコラ・ド・スタールはピエール・ルキュイールに宛てて次のように書いていた。「今夜、カンヌは神々しいほど美しい。カリフの宮殿が秋の低い光にきらめく。船のマストは刈り取られ、そして伝説のような白。そのほかにも紫のボートの音が響く夜明けの燃えるような輝きがある」。およそひと月の後、1954年12月13日、彼はカンヌからジャック・デュブールに宛てて書いた。「今朝、カンヌの港には光が溢れていた。過剰なまでの光に船はまるで宙を飛んでいるようにみえた」。要するにスタールはデビューした頃から変わっていなかった。相変わらず太陽の眺めに熱狂する能力をもっていて、今日では雨天の時にしか思い出さないこの天体が、朝に夕に、水面を震わせるのを見ると熱狂するのだった。現代社会においては眼差しの力によって太陽を昇らせるためには、画家が必要なのであろうか。また自分が現代文化のもっとも輝かしい希望のひとつであるとき、単なる平凡な日没を描くという考えにどうしておじけつかないことがあろう。だがスタールはそれを行った。恥とも思わなかったし偽りの謙虚もなかったが、彼はおそらく不安を抱いたに違いない。そしてまた、完璧な光を追究する男の激しい情熱のすべても。(138頁)

■「私がユニークであるのは、多かれ少なかれ接触を持ちながらも、カンヴァスに投入することに成功しているこの跳躍にしたすらよるのである」。(140頁)

■ダグラス・クーパーはこの新たな飛躍の始まりをこう言い表わしている。「(中略)この点においてのみならず、また構図においても油彩の使い方においても、ベラスケスとマネのスタールへの影響が感じられる。1954年の春から夏にかけて彼はこれらの画家の作品を研究したのだ」。(140頁)

■たとえば「主題は、特別な意味を持ちますか。個人的あるいは象徴的に」という質問に対して彼は単純に「主題は存在しない」と答えたが、彼のメモには「何との関係で特別の意味というのか。個人的なといわれれば、それは当然である。象徴的といわれても私には分からぬ……事物は制作中の芸術家と常に交流している。私の知っているのはそれだけだ」。(172頁)

2009年4月6日

-『仏陀』増谷文雄 著 角川選書ー18

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