岡野岬石の資料蔵

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『仏陀』増谷文雄 著 角川選書ー18

『宇宙船地球号操縦マニュアル』バックミンスター・フラー著 芹沢高志訳 ちくま学芸文庫

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■反射機能について、いかに自分たちがうぬぼれているかを知るために、ちょっとこんなことを考えてほしい。あなたが昼飯に魚とポテトを食べたとして、これで髪をつくろう、あれで皮膚をつくろうと、それらを意識的に分けて体内に回しているわけじゃないだろう? 誰だって、自分がどうやって七ポンドから七十ポンドに育ったか、さらになったのか、そんなことを知っているやつはいない。これらはみんな、自動的におこなわれるのであって、これまでもそうしたわけだ。この地球上で、私たち全体を救ってくれているのも、こうした自動的な働きによるところがとても大きい。(44頁)

■シナジーとは、システムのなかの別々の部分、あるいはそうした部分の寄せ集めの振る舞いをバラバラに見ていても、決して予想できるような、そんなシステム全体の振る舞いを指すもので、こんなことを意味するのは私たちの言葉のなかでただひとつ、シナジーだけだ。(72頁)

■この難破船のなかの金持と評判の男の不動産、その純資産的価値の正当性などというものも、結局は「神の目から見た」正当性に戻って評価されねばならない、ということだ。どういうことかといえば、まず腕力と卑劣さと武力でもって土地の主権とかいうものが主張され、次に中身が道徳的かどうかはべつにして、とにかく主権国の武力で武装された法律というものがあって、それで守られた「合法的な」財産として、土地が合法的に再譲渡される。そしてそのあと抽象化されて、株券や債券といった紙に印刷され、ついには会社の資産になったということにすぎない。(88頁)

富というのは、代謝的(メタボリック)、超物質的(メタフィジカル)再生に関して、物質的に規定されたある時間と空間の解放レベルを維持するために、私たちがある数の人間のために具体的に準備できた未来の日数のことだ。(89~90頁)

■シナジェティクスは富というものがなにを意味しているのか、そのことを明らかにする。富とは未来に向かってエネルギーの再生がうまくいくようにする私たちの能力であり、自分からなにかを始め、干渉されずに行動していく自由度を高めていく私たちの能力でもあり、つまりはサイバネティクス的にいえば、これらは物質的なエネルギーと超物質的(メタフィジカル)なノウハウというふたつの主要部分に分類できる。そしてこの物質的なエネルギーの方は、さらにふたつの交換可能な相に分けられる。連合と分離だ。エネルギーは連合して物質となり、分離して放射となる。(92頁)

■ところが突然、光が私たちのもとに届くには、太陽からなら八分間、太陽の向こうの最も近い恒星からなら二年半、ほかの恒星からなら何年もかかるということが発見された。この今の瞬間に存在すると考えられていた多くの星が、数千年も前に燃え尽きたものであることを、私たちはたかだか3分の二世紀前に知ったにすぎない。宇宙は同時的なものではない。(94頁)

■ほんとうの富は勘定ができないほど、容赦なくシナジー的に増えて、それを享受する人間の数もみらいの日数もつねに増え続けていったから、その結果、人類の一パーセント以下がなんとか健康で快適に生き延びられるという状態から、今世紀になって、人類の四四パーセントが、以前には経験することも夢見ることもできなかったような標準生活を生きられるようになった。このまったく予想もできなかったような成功は、たったの三分の二世紀で起こっている。しかしその間、世界の人口一人あたりの金属資源は減り続けていったにもかかわらず、だ。それはどっかの政府か企業が意識して、特別に試みて起こったことではない。人間がより少ないものでより多くのことをどんどんやっていく方法を、それと気づかずシナジー的に身につけはじめたからこそ、こんなことが起こったわけだ。(100~101頁)

■物質的な資源についていえば、つい最近まで、人間は自分たちが知っている材料からしか建築や機械やその他の製品をつくれないと思ってきた。過去にも時々、科学者たちは生産技術の展望を大きく変えるような新しい合金を発見してきた。しかし今日では航空宇宙工学の分野を見ればわかるように、科学者たちは超物質的(メタフィジカル)な能力を発達させ、ユニークな素材を完全に「注文通り」つくりだすところまできている。こうした新素材は、これまで宇宙に存在することが知られていたどんな物質にもまさって、あらかじめ指定した物理特性をまんぞくする。だからこそ、再突入に必要な円錐頭(ノーズコーン)は開発できた。人間を乗せて、ロケットで打ち上げられた人口衛星が、地球に再突入する際の円錐頭(ノーズコーン)だ。シナジーは本質に関わる。社会全体が緊急事態だと私たちが表明し、そんな圧力がかかるときのみ、今までに代わる効果的で適切な技術戦略がシナジー的にあらわれる。このとき、心は物質を支配し、主権国家の国境の地理的局所性だけにへばりついていた限界から、人類は逃れていくのだ。(103~104頁)

■「おまえ」とか「おれ」にかじりついて、生存のために闘う必要がないという意味での自由でもあり、だからお互いに信頼しあい、自発的に、また論理を重んじて、人は自由に協力していけるようになるだろう。(109頁)

■一家の生活は苦しかった。シカゴのスラムの安アパートに住み、隣りはアル・カポネのところの殺し屋だった。フラーは妻子を妻の実家に帰し、自分は自殺することを考えた。「乳飲児を抱え、もじとおり一文無しだった。私は自分に言い聞かせたんだ。最善を尽くしたのにうまくいかなかった。たぶん私の能力が足りなかったんだ。みんなそう思っているらしいし、実の母親でさえ、いつも私のことを能無し呼ばわりしていた。きっと母親の言うとおりなんだ、とね。」(ロナルド・グロス著『アメリカ流クリエイティブ・ライフ』紀田順一郎訳、TBSブリタニカ)ある晩、フラーは一人アパートを出ると、ミシガン湖畔まで歩いていった。カナダ側から激しい風が吹きつけており、波が彼の足を洗った。このまま死んでしまおうか?しかし、彼は思いとどまる。そして決心した。「人は自分自身で考えねばならない。もう一度、自分だけでこの宇宙と向かい合ってみよう。自分の言葉で、自分の経験だけを信じて、もう一度宇宙を見直してみよう」。自殺の代替案として、自分のコスモロジーの構築を思いつくとは驚きである。彼はその後二年間かけて、自分が本当に信じられる宇宙像をつくりあげていった。(156頁)

■ 私は地球で生きている。

けれども私が何者か、今も自分でわからない。

カテゴリーなんかでないことは、

それでもちゃんと知っている。

私は名詞なんかじゃない。

どうやら私は動詞のようだ。

進化していくプロセスだ。

宇宙の積分関数だ。(184~185頁)

■題名の『クリティカル・パス』とはオペレーションズ・リサーチ(OR)の用語で、作業ネットワーク中、プロジェクトの完了時間を左右する重要な作業経路のことをいう。あるプロジェクトを最短時間内でうまく達成できるかどうかは、このクリティカル・パスのデザインにかかっている。フラーはこの大著で、人類社会を一気に次のステージまで進めるためのクリティカル・パスを提案しようとしたのである。(186頁)

『宇宙船地球号操縦マニュアル』バックミンスター・フラー著 芹沢高志訳

ちくま学芸文庫 2008年10月30日

-『仏陀』増谷文雄 著 角川選書ー18

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