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室蘭(イタンキの丘)だより(2023年)

投稿日:2023-09-13 更新日:

室蘭(イタンキの丘)だより(2023年)

イントロダクション

『画中日記』2023.09.03【明日、室蘭に出発

明日から9月11日(月)まで室蘭外海岸のイタンキの浜を描きに出かける。

何事も、発心(ほっしん)しなければ、その結果は得られない。道元は「一発菩提心を百千万Cするなり」と言っている。

若い時は、現在を未来の原因として生きているが、歳をとると、現在が自分の未来の原因とならず、過去の結果だけで生きている状況に陥いる。まして、日本人は、美しくやさしい自然の中では、「諸行無常」の諦念の甘いささやきが耳元で聞こえてくる。いかん、いかん!

室蘭旅行も、計画してから、いつのまにか明日の出発日をむかえる。11日に帰柏してから19日から26日まで、高知県の土佐町に山中の棚田を描きに行く予定で、旅館はもう予約した。最初の計画の、現地に一番近い町の一軒しかない旅館は、すでに休業していた。だから、計画を先延ばしにすると、現実は逃げていってしまうのだ。

私自身も、画材を背負って、外でイーゼル画が描けるのも、今年がラストチャンスかもしれない。……と言いながら、どんな絵が描けるかという期待が、沸々と内から湧いてくる。画家になってよかった。

『イタンキの丘(室蘭)だより』2023.09.04【去年と同じ、室蘭ユースホステルに到着

(この文章は、現在柏のアトリエで書いているもので、日付は室蘭当日です) 

今日から1週間(4日~11日)イタンキの浜と丘をイーゼル画で描く予定で、室蘭ユースホステルに着いた。

新千歳空港から下車駅の「日本製鉄前」は、道南バスの高速バスを使ったが、予約もいるし、バスからの視界は単調なので、鉄道を使って乗り継いで「輪西」駅に来ればよかった、と、今はおもう。帰りには、輪西駅から各駅の列車を乗り継いで、空港まで来たが、数回の乗り換えは時間がかかるが、車窓からの景色と、乗り降りの地元の人の生活も見られ、そして駅周辺の風景や駅名や看板に昭和の香りが残っているので、旅行好きには、効率を度外視して楽しかった。

バスを下車して、距離は近いので、歩いてユースホステルに向かったが、めずらしく(地方では流しのタクシーはなかなか拾えない)途中でタクシーが止まっていたので、急な坂道もあるので近くて悪いが、タクシーで室蘭ユースホステルに着いた。部屋は去年と同じ、2号室「潮騒」、送った画材の荷物をほどき、明日からの描画の準備をする。

はるばる来たゼ、室蘭に♪♪「腕が鳴る」なぁ。

写真は2点とも去年撮ったものです

『イタンキの丘(室蘭)だより(2023年)』2023.09.05【イタンキ浜、虹】

今日は朝から雨、室蘭ユースホステルの藤当さんの文章が載っている『室蘭文藝(56)』 を読んで、時間を過ごす。この本の作品中、秋本寿子さんの『牡丹の墓』の文章に感心した。

時々タバコを吸いに外に出るのだが、目の前の草原(くさはら)に雨に濡れてカラスがいたので、デジカメを部屋に取りにかえって写した。カラスの顔の向きがイマイチなので、絵にするには顔の向きを変えなければならないだろう。

午後2時過ぎから、やっと雨が止んだので、描く予定の場所ではないが、たまらず、ユースホステルのすぐ下の、駐車場横の小公園にイーゼルを立てた。描いている途中から、画面の中のまるでお誂えの位置に虹が出た。以前、御殿場の一木塚で虹が目の前にでて、おまけに画面のちょうどいい位置にでて、絵に描いたことがあるが、今回も、天の為すことはすごいね。

イタンキ浜(虹)/F15号/油彩/2023年

『イタンキの丘(室蘭)だより(2023年)』2023.09.06【潮騒の浜(イタンキ浜)横】

今日は、今回の旅行の目的だった、イタンキ浜の落石の絵を描きに、イレコンで室蘭ユースホステルを出た。行きは、丘から浜への下りで、道は知っているので、背負ったジュリアンボックスとキャンバスは負担にはならなかった。

現地に着いて荷物を下ろし、イーゼルを立てるポイントを探す。すぐにポイントは決まった。今回の絵の、イーゼルポイントを決める根拠は、海と浜と崖と崖から落ちてきた岩、その4つが一つの画面に入る場所、これが難なく見つかったことは、幸運だった。F15号のキャンバスを横に使って、筆をはしらせた。

ここまでは順調だったが、この日は、ゴープロで自撮りの動画を撮る用意で、飲み物とお菓子をポーチに入れ忘れ、途中の喉の渇きと、描画が終わってからのルーティーンの、お茶とお菓子とタバコの一服ができずに、休憩なしに、帰路についた。丘の上のユースまでの上り坂で、ヘロヘロになってしまった。これは、喉の渇きが大きな原因だろう。人生も絵も、段取りが重要だ。反省。

潮騒の浜(イタンキ浜、横)/F15号/油彩/2023年

『イタンキの丘(室蘭)だより(2023年)』2023.09.07【潮騒の浜(イタンキ浜)縦】

今日は、前日今回の目的の一つの、ゴープロで現場の描画の動画を自撮りで撮ったことで、撮影の手間がなく、場所も同じなのでF15号のキャンバスを縦に使って、スムースに筆をはしらせた。終わって、今日は、ユースホステルの自動販売機から買ったロイヤルミルクティーと、アトリエで朝食べているルーティンの袋菓子のケーキを一つ食べ、タバコを一服。このタバコがウマいんだ。タバコは、イーゼル画を描き終えて、風裏で、石や外階段などに座って喫う一服が画家冥利なのだ。もちろんだけど、携帯灰皿を常に用意しているので、許してネ。

一休みして、明日描く場所を探したが、海と浜と崖と崖から落ちてきた岩、その4つが一つの画面に入る場所が見つからないのだ。結局、昨日と今日描いたポイント一つしかここでのイーゼルを立てる場所がなかったことになる。私の幸運に感謝。

ユースホステルに帰って、昨日、電池切れで撮れなかった、動画の続きを撮る。パソコンも、ゴープロも、歳とって一人で使いこなせるのは、世界中で一番難しい、芸術というものに毎日長年努力しているのに、ああすればこうなるというような直線的な命題は、私にできないことはないという自信からなのだ。

イタンキ浜の岩(縦)/F15号/2023年

ユーチューブ動画

https://www.youtube.com/watch?v=q20amG_HhU4&t=907s

『イタンキの丘(室蘭)だより(2023年)』2023.09.08【イタンキの崖上からの風景(横)】

今日のイーゼルを立てた場所は、今年、今年の室蘭ユースホステルの周辺の丘と小道の草刈りのおかげで こちらにきて予定外に出遭った。去年にもきていたのだが、ここまで来るのに、画材を背負っての歩きと、イーゼルを立てる場所がなかったので、写真を撮っただけだった。イタンキの浜と岩、の絵が一箇所(縦横2点)しか描かなかったので、この場所が、今年、この状態であったのは幸運であった。

描きはじめは曇っていたが、しだいに晴れてくる。写真を見てのとおり、この場所は、太平洋からの海風がまともに吹き付ける場所で、あおられるキャンバスをつねに手でおさえながら描かなければならず、最後は少しハショッて現場で描き終えた。

ユースに帰って加筆、午後、汐見が丘展望台に散歩する。

(加筆後の写真は、私のパソコンに保存ミスで消去してしまったので、帰柏後アトリエで加筆した途中の作品をアップしました)

イタンキの崖上からの風景/F15号/2023年

『イタンキの丘(室蘭)だより(2023年)』2023.09.09【雨で描きに出られず】

 今日は、天気がよくない。ユースの部屋のテレビの天気予報では、関東地方のでは大雨らしい。柏を出る前に、アトリエの雨漏りの準備をして出てよかった。

朝食前は、曇りだったので、デジカメを持って、ユースの前の浜を見下ろす崖まで散歩する。近距離なので、このぶんでは描けるとおもい、朝食後、ジュリアンボックスを背負い、ユースの玄関ドアを出たところで小雨が降ってきたので、描くのは諦めた。

しかし、いつでもベストはつくしておくものだ。朝食前の散歩で、写真を撮ったポイントが、翌日の役にたった。

『イタンキの丘(室蘭)だより(2023年)』2023.09.10【イタンキ浜の崖上からの風景(F15号、縦)、光る海(F15号、縦)、イタンキ浜の崖上からの風景(P15号、横)、イタンキ浜の崖上からの風景(P15号、横)】

 今日は、室蘭で絵が描ける最後の一日。午後5時過ぎには、画材をアトリエに返送するので集荷を予約している。残りのキャンバスは、F15号が2枚とP15号が2枚の4枚。朝食後、7時22分に前々日横構図で描いた同じ場所で、F15号のキャンバスを縦に使ってイーゼルを立てた。天気が良く、この場所ではめずらしく風が少ない。こういう風を、英語ではシーブリーズということは、昔のハワイヤンソングの題名で知っている。太平洋からのシーブリーズを受けて、朝の光をあびて、幾星霜の時間が刻んだ風景のなかで筆をはしらせる、何度でもいうが、画家冥利に尽きる時間だ。こんな時間をもてれば、身心が浄化されて、寿命が延びるわ。

快調にトばして、光る海の方向で持ってきた2枚目のキャンバスをうめる。このキャンバスの描画は、描くところが少ないので、短時間で終わった。

部屋に戻り、いつもなら、パレットと筆の後始末だが、そのまますぐに残りのP15号2枚を持って、昨日写真に撮った、今日の場所の少し下の場所に向かった。ここも、ユースからダイレクトに行く道がある。イーゼルを立てるのも描くのも、苦労する場所だが、風が少ないので、2枚描ききった。

東伊豆で、10号と8号のイーゼル画を4枚描いたことがあるが、15号の作品4枚をイーゼル画で描くというのは、ギネスブックものだろう。これで、持ってきた8枚のキャンバス全て描ききり、達成感のよろこびと満足感にみたされた。充実した時間だったなぁ。

急いだのでデジカメを入れたポーチを忘れ、写真が撮れなかったが、部屋に帰って、パレットと筆の後始末をして、荷造りをし終えたので、充実した時間ついでに、写真を撮りにいった。すでに光線の角度が変わって、崖の東側が影でうまっていたが、これは、前日の写真でフォローできるだろう。

ああ、疲れた。疲れたけど満足!満足!!

イタンキの崖上からの風景/F15号/2023年

光る海(イタンキの崖上から)/F15号/2023年

イタンキの浜の崖上風景(1)/P15号/2023年

イタンキの浜の崖上風景(2)/P15号/2023年

『イタンキの丘(室蘭)だより(2023年)』2023.09.11【帰柏】

 今日は、帰柏。朝食後、室蘭ユースホステルを出る。昨日で、描き残した場所はないので、もうここに来ることはないだろう。ついつい感傷的になってしまう。空港までは、輪西駅から鉄道を乗り継いでいく。時間はかかるが、これも、高速バスより私には楽しめた。

アトリエに帰れば、もう室蘭での一週間は過去の出来事である。老いても、現在を、未来の原因として生きなければ、過去の追憶と感傷のドツボに落ちていくだろう。これもまた、画家になって良かった。ネクストワンの絵がある。

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