岡野岬石の資料蔵

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御殿場-6

投稿日:2025-09-23 更新日:

御殿場-6 デジタルフォトデータ

◾️御殿場2013-6-27 玉穂

 2013.06.27 【富士山麓風景(14)】

今週の御殿場は、このところの梅雨空で昨日(26日)は雨。今朝は曇りで時々陽が指すが、富士は山頂が隠れているので、富士山が見えない時のポイントのひとつ、6月6日に載せた坂道をF8号の縦構図で描いた。

いよいよ来週から個展なので、この先2週間は御殿場に来れない。自分の個展会場で芸術論を吹きまくるのは楽しいことだが、そして私の唯一の趣味は個展なのだが、2010年に東伊豆でイーゼル絵画を始めてから、現場で描く充実した時間ほど楽しいことは他にはない。今日の現場や清宏園のような雑木林の中は野鳥が多く、小鳥のさえずりのなかで、自我の造形意識を滅して筆を走らせていると、「悉有は仏性である(注)」という道元の解釈が正しいことを体感する。(いつもながら、個展前なのにまたこんな話になってしまって……スビマセンネ~)

来週の『御殿場だより』は個展会場の写真を載せる予定です。また、個展初日にはデジカメで動画を撮って、ユーチューブにアップするつもりです。

富士山麓風景(14)/F8号/油彩/2013年

◾️御殿場2013-7-14、15 高塚道

富士(62)/M10号/油彩/2013年

富士(63)/P10号/油彩/2013年

富士(64)/M10号/油彩/2013年

◾️御殿場2013-7-24 玉穂 カノコユリ

 2013.07.25 【霧の鍋有沢(1)】

今週の御殿場は、3日間とも曇りで富士が顔を出さず、久しぶりだが予定していた所にイーゼルは立てられなかった。しかし、24日は早朝霧がでていたので、霧がでたら描こうとおもっていた、馬頭塚の広場の松の木の前にイーゼルを立てた。松の木は描ける時に描いておかないと、松食い虫の被害でいつ枯れるか予想がつかない。何度かイーゼルを立てた、東伊豆のアスド会館裏の大きな松の木も、最近の『稲取便り』のサイト中の写真では、枯れてしまっている。霧も松も、因と縁の、縦糸と横糸の、無数の網目のなかの一期一会の交点なのだから、裸眼で現場でダイレクトにキャンバスに描写していると、「これを描かずにはおくものか」という気力が湧いてくる。こんな感情が、セザンヌの言っている「タンペラマン」のことだろう。

馬頭塚の広場のある土地の昔からの地名は「鍋有沢」というのだが、勝間田二郎著『郷土誌(御殿場、裾野、小山)』上巻の文中に、地名の由来がでていた。源頼朝の軍事訓練を兼ねた卷狩りの時のキャンプで食事の調理中、大鍋が割れたことの由来で鍋有沢(岡野注;最初は鍋割沢か)の地名が伝えられ残って今に至っているらしい。どんな片隅でも、立っているその場所の下を、存在の時間の厚みが、地層のように重なっているのだ。

富士山麓風景(15)/F10号/油彩/2013年

カノコユリ/F8号/油彩/2014年

◾️御殿場2013-7-31 玉穂

 2013.08.01 【霧の鍋有沢(2)】

今週の御殿場は、先週に続いてやはり富士が顔を出さず、5月16日の『富士(58)』から2カ月半も富士山の絵が描けない。そのかわり、この季節、昨年も朝夕ガスがよくかかるので、先週の松の木の近くの、最近見付けてもう2枚描いた小さな坂道の前にイーゼルを立てた。描きはじめは、霞んでいたのだが、描き終るころにはやはり、霧は消えてしまった。

描いている途中に、木立の間からネムの木のピンクが目に入ったので、描き終えてから、ネムの木が描ける場所があるかどうかひと回りロケハンをした。残念ながら、ヤブでイーゼルを立てる場所がなくデジカメで写真を撮っただけ。緑の林のなかのネムの花のピンクは美しく、そのうえ富士が画面に入るとベストなのだが、去年の8月8日に描いた『富士(5)』がかろうじて1点描いただけである。今年は来週がラストチャンスだが、朝晴れて富士が顔をだせば去年描いた場所に、顔をださなければ引き続いてこの近くにイーゼルを立てようとおもう。

 2013.08.05 【霧の鍋有沢(番外編-1)】

明日朝、今週の御殿場行。その前に、先週撮った写真の1枚を紹介します。

先週ネムの木の写真を撮っているときに、スコリアの道の上で動いている昆虫の群を見つけた。これは、シデムシの幼虫と成虫で、森の中の掃除人、動物やミミズなどの死肉を餌にする昆虫だ。子供の頃の私だったら、べつに珍しい虫ではないが狂喜することだろう。昆虫採集に熱中していた興奮が一気に冷めてしまった思い出がある、当の虫なのだ。

小学校の5年生か6年生のときの夏休み、『ファーブル昆虫記』を読んで、単純なカブトムシやギンヤンマの標本ではなく、地味な昆虫をビシッと揃えた美しく高度な標本を作ろうとおもった。蝶や蜂は展翅が難しく、またその道具が田舎では手に入らず(東京に出て来て、渋谷の坂の上にある昆虫専門店で、専門の収納式捕虫網や展翅版、ガラス蓋の標本箱等を買った時は嬉しかった)虫や腐敗につよそうな甲虫類の採集に決めた。『ファーブル昆虫記』のなかの、肉屋にいる昆虫(サシガメだったか)を読んで、少ない選択肢のなかから肉食の昆虫を選んだ。缶詰の空き缶の中に肉を一切れ入れ、入り口を地表に合せて埋めればトラップになってなにかの昆虫は採れるだろうとの皮算用だったのだが。

トラップは1個だけ、仕掛けるのは大池の先の草原と決めて途中で肉を買って行けばいいや、と家を出た。いつも私がお使いを母に頼まれる滝岡肉店に行けばよかったのだが、行く道の途中のF肉店に行ったのが第1の誤算。滝岡肉店のニイちゃんなら、顔見知りだし時々サービスにハムを余分にくれたりしていたので「肉を10円分チョーデー」と言えば、肉の切れ端をタダでくれたかもしれないのに、F肉店の親爺は明らかに迷惑そうな顔をして、10円分の肉の理由を聞いてくるのだった。理由を説明して、お金もチャンと払ったのに、最後までイヤミたらしくグダグダいわれて、ア~、今思い出しても腹が立つ、このクソ親爺。

続きは、御殿場から帰ってきてから。

 2013.08.08 【霧の鍋有沢(番外編-2)】

写真は7日に描いた鍋東地区でイーゼルを立てた場所、文章は先週の続きです。

暑い夏の昼間、草いきれとキリギリスの「チョン ギース」の声のなかで、くさはらの土を掘り返して空き缶を埋める少年を、いつのまにか近くの木の上にとまったカラスが興味深そうに見ている。少年は数時間後の獲物を空想して夢中だ。採集した虫は、マヨネーズのビンの中にアンモニアを染み込ませた脱脂綿を入れてその中に密封して殺し、一匹づつ紙に包んで持ち帰れば手足や触覚が傷つくこともないだろう、完璧だ!。肉を買う時にチョッと齟齬はあったが、あとは予定通り完璧に仕事をした。数時間後、この空き缶のなかは数種類の昆虫が入っていることだろう。

一旦家に帰ってから、出直すには遠いので、大池で時間をつぶしてから採集しようと、時間をつぶすためにも、だから大池の先のくさはらを採集場所に決めたのだから(どうだ、完璧だろう)、と1時間位のつもりで独りで池の畔で遊んでいたのだが、どうにも我慢ができない。甲虫だから飛び去ってしまう訳ではないのだから何度でも見廻ればいいヤ、と30分ばかりで、最初のトラップの見分に向った。これまでのことは、本からの情報ははあるが、その本を自分でさがし自分で読むことを含め、全部自力でやっているのだ。自分で作ったトラップで、獲物を収穫するするときの、期待と高揚感は、遊びさえもすべて周りから用意されている今の子供にはとうてい分からないだろう。だからこそ、自力で物事を為し得た時の喜びは大きいのだから。

というわけで、期待にドキドキしながら、空き缶を覗いた。「ナイ……、ナイ、ナイ、ナイ」何もない、肉もない。空き缶は汚れてもいない、なんの痕跡もない。何故ダ!! 

しばらく、考えて、やっと気付いた。あのカラスだ。あのカラスが少年がトラップを離れるとすぐに横からさらっていったのだ。(こんな時にふさわしいセリフを後年、映画で知る。肩をすぼめ両の掌を前に向けてこう言うのだ。「セ・ラ・ヴィ(これが人生だ。こんなもんだ)」)

F肉店の親爺が、ケチの付きはじめ。物事が成就しないときのパターンは、万事こんなものだ。少年は悄然と家に帰った。昆虫採集の熱もそれ以後一気に冷めてしまった。(終り)

富士山麓風景(16)/M12号/油彩/2013年

◾️御殿場2013-8-7 永塚

富士(59)/F10号/油彩/2013年

富士(60)/P10号/油彩/2013年

富士(61)/F20号/油彩/2013年

◾️御殿場2013-8-21,22 永塚 桜公園

 2013.08.22 【満月と富士】

正確な月齢は知らないが(グーグルで調べれば分かりますが)一昨日の夜も昨日の夜も満月。御殿場では、箱根側から月が出るので富士と組み合わせるには明け方の残月しか狙えない。おまけに、月の出や月の入りの、水平に近い方向の月は雲に隠れることが多く、満月と富士山との組合わせが見られ、それを実際にイーゼルを立てて描ける確率は思いのほか小さい。昨日の朝は午前3時頃は理想的だったのに、月の入りの予想がつかず逃したので、今朝は4時半頃から、桜公園の現場で準備をして待っていた。ゴッホが夜景を描くときは、帽子のツバにローソクを立てて描いているのを、昔映画でみたことがあったが、これは実際は無理。野外では蝋燭の火は、風で消えてしまう。キャンバスとパレットを照らす夜釣りの時のキャップライトを用意しておけばよかった。写真の中の公園の時計が5時半コロだが、描き始めから描き終えるまでの正味30分の間に経験したことは、とにかく、夜が白みかけると月の輝きの変化と、富士のシルエットの変化、一番の変化は、絵のベースである空の明度の短時間の変化の激しさである。

この日は、最後まで月は雲に隠れず、いつもの画と同じく、一期一会の奇跡的な時間だった。おまけはもう1点、日の出前の太陽が雪渓の消えた富士の山頂部だけにあたって(冬ならば白い雪を紅色に染めるのだが)赤褐色に染めた、イーゼル画では初めての近景のない富士を描いた。

富士山麓風景(19)/F8号/油彩/2013年

富士(65)/M8号/油彩/2013年

富士(66)/M8号/油彩/2013年

◾️御殿場2013-8-27、28 高塚道

 2013.08.29【富士(67)、(68)、(69)】

昨日の朝も、今朝も、高原の爽やかな晩夏の朝でした。イーゼルを立てた場所は、先々週の『富士(64)』の近くで、標高が800m位です。先々週は緑一色の草原だったのに、28日はススキの穂がでていて、29日の今朝はもうススキの穂が開いている。この時期もまだ、陽が上ると雲が山頂を隠すので、朝早く現場に立つおかげで、生きている自然の息吹が感じられる。今年生まれ育った子連れの鹿の親子や、キジや、コジュケイの姿にも出くわす。描き終える頃には、舗装されていない砂利道を白い砂ホコリをたてて通過する自衛隊の車両や、空砲だろうが意外に近くで銃の音がして、落ち着いて絵が描けないので、早朝のいっときは値千金だ。

富士(67)/F10号/油彩/2013年

富士(68)/P10号/油彩/2013年

富士(69)/M20号/油彩/2013年

◾️御殿場2013-9-18,19 玉穂、満月

 2013.09.20【富士(71)】

今週の御殿場行は『視惟展』の会期中だが、イーゼル絵画の誘惑が断ちがたく やはり現場に立った。3日前の9月16日の搬入日の台風一過で行った日の18日、翌日の19日と快晴で、おまけに、昨晩は中秋の満月で月の出も、富士と満月の残月も午前2時頃の月も、めずらしくすべて雲に隠れなかった。やはり現場で肉眼で見る実在の風景は美しい。天空の月があの場所に実在し、その光は反対方向の太陽の光を反射しているのだとおもうと、それを見ている自分の心は天地一杯の空間に充たされる。それが描写出来ればいいのだ。

富士(71)/P20号/油彩/2013年

富士(72)/P20号/油彩/2013年

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