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(9)上位概念でしか解決できない

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(9)上位概念でしか解決できない(53頁)

本来そうでない位置で、そうであるかのごとく、余計なことをしているのだ。そこを相手にしてはいけない。上位概念を持たないといけないのだ。慧可の悩みも「ある」ことを前提としていくと、自分の心の悩みは永遠に消えない。自己の煩悩は、自己そのものを放下解脱しなければ、煩悩の種は尽きない。達磨は「良かったね」とだけ言い、慧可は「ないものを、あると思って悩んでいた」ということが分かったのだ。慧可の逸話で「お前の心を持ってきなさい」というのは、じつは上位概念でないと解決できないよ、という話なのである。

これは僕が以前に、『発言小町』という読売新聞のネット掲示板で見た話であるが、「5000円のチケット事件」とでも呼んでおこう。内容はこうである。まだ結婚するかどうかは決まっていないカップルで、デートは割り勘と取り決めている二人がいた。発言小町に投稿したのは女性のほうで、内容は、ある時に二人で7000円の食事をした。女性がその店の5000円の食事券を持っていたので精算時に出した。男性は、「おお、ラッキー」と言って残りの2000円を1000円ずつ出したらいいと思った。

しかし女性は「なに言っているのよ!」と抗議してちょっとした喧嘩になった。男性は2000円を払って、外に出てから「金にシビアだな。引いちゃうよ」と女性に言った。女性は納得がいかずに「こんなこと言われたけど、皆さんどうおもいますか?」と掲示板に書き込んだ。その板に読者が書き込むわけだが、僕は回答がすぐ頭に浮かんだ。僕は、皆が書き込んだ回答を見たのだが、しかし、すぐに僕の頭に浮かんだ回答は、たくさんの回答のなかに一個も出てこない。たくさんあった回答は「そんな男性とは別れなさい」とか「ワリカンだと、あなたの出す金額は3500円だから、1500円男性からお金をもらいなさい」とか少数派では男性で「サービス券を割り勘分なんて、女性もせこいな」とか。

僕の回答は簡単で「このトラブルは忘れなさい。今後あなたは、ワリカン分はいつも現金で払いなさい。食事券やサービス券等は、あなただけか、家族などあなたがオゴッテもいいときに使いなさい。それで問題はない」ということ。そうしないと「どっちが正しいか」を論争すると、どちらにも言い分はあるのだから、いつまでも解決はない。一神教の宗教どうしの争いや、一元論どうしの論争も調停はできない。

そういう考えで世の中を渡っていたら、5000円のチケットで別れる、別れないと言っていたら、今後もトラブルの連続だろう。仮にその男性と別れても、人生には別れられない関係もある。家族や隣人や会社の同僚など、別れられない関係でいつも正しいか正しくないかと相手と論争していたら、ずっと解決しない。仮に、その問題が解決して、男性との関係が続いても、その女性の一生は、どっちみち周りとのトラブルの連続になる。隣の人ともそうだし、会社の同僚との飲み会で、チケットを出して「おつりをちょうだい」なんて言ったら怒られるだろう。

これは、上位概念で考えないといけないという例である。あるか、ないか、というと悩みを「あるもの」として慧可は考えていた。しかし「その悩みは何なの、その悩みを言ってごらん」と言われて仮に話しても、それで一つの問題が解決したとしても、自我意識という悩みの種は消失していないのだから、ずっと永遠にその種の問題は尽きることはなく、廓然無聖(かくねんむしょう)の畢竟地(ひっきょうち)には至れないのである。つまり上位概念で考えないと解決しないのだ。「明日、心を持ってきなさい」と言われて、悩みのほうに行ってはいけない。それではあることを前提としている。これらの諸々の出来事を含む世界の最上位概念が、全元論なのだ。

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