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(28)絵画空間はリズム

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(28)絵画空間はリズム(90頁)

僕は一九九八年(五二歳)の個展の時から、自分の絵画制作のコンセプトとして「抽象印象主義」を標榜している。抽象印象主義の大前提は、自分の絵画の向かう目標に超越的な「美」を措定し、そのベクトルで日々努力することだ。その「美」を成り立たせているものに2つの要素がある。視覚の美の要素は、「光輝き」と「秩序のある空間」。音楽の場合、時間の秩序がリズムである。だから、絵画の場合は、画面の空間を考えることは、音楽のリズムを類推して解釈すると分りやすい。

モネの場合、光は溢れたけれど、空間が一様にべたぁ~と広がって画面のリズムがなくなった。画面に水の入ったモチーフの『睡蓮』などの場合は空間が錯綜してモネの絵の中ではリズムがあるが、『ルーアン大聖堂』などは、何となく綿(ルビ、わた)でできた風景のような感じがする。そこには、サッカーやボクシングのフェイントの動きのような、キュッキュッとシンコペーションしない、つまり後打ちのリズムがないのだ。

音楽のリズムというのは、時間の秩序であるので、本来時間はメトロノームもドラムもなければ、べたぁ~としている。しかし、時計だったらカチ、カチ、カチ、カチ。こうやって刻むと、ひとつの秩序が生まれる。

ウン、チャ、チャ、ウン、チャ、チャ。これだと三拍子のこの秩序で、べたぁ~とした、何もない時間の流れを秩序立てていくわけである。これが、音楽のリズム。リズムというのは、およそ世界中で大体二拍子系か三拍子系か、その2つを組み合わせた八分の六拍子くらいしか知らなかった。特にクラッシックは二拍子系の四拍子だ。

ところが、近代になると、アフリカなどのリズムが入って来たり、あるいはジャズがアメリカで生まれたりした。二拍子系か三拍子系しか知らなかった時には、リズムはほとんど創造の対象にはならなかったので、音楽家は、自分が二拍子系か三拍子系か、それ以外には作れるとは思っていなかった。

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