小渕沢行
プロローグ
『画中日記』2024.05.31【6月3、4日と小渕沢行】
来週の月曜日の始発のバスで出発、3、4日と小渕沢に連泊して、太田直俊氏の庭を描きに行く。今年はまだ、風景のイーゼル画はまだ描いていないので、楽しみである。
太田氏とは、まだ会ったことはないのだが、3日に小渕沢駅に車で迎えにきてくれるとのこと。夕食は、私の泊まる旅館で、二人分を予約をしておいた。夕食時に、太田氏と、日本人の庭についての話ができることを楽しみにしている。4日は、太田氏は居ないので、私はタクシーを使って、行き来して、翌日の10時52分小渕沢駅発あずさ18号で帰柏する。以前とちがって、特急列車の自由席がなくなったので、緑の窓口で切符を買っておいた。
若い時の、行き当たりばったりの旅行が、嘘のようだ。しかし、若い時にさまざまのトラブルを独力でなんとか乗り切ってきた自信が、今の自分の自力になっているので、若い時の苦労は、今はもう良い思い出だ。
忘れずにICレコーダーを持っていって、二人の会話を録音してこようとおもっている。今回は、ゴープロは持っていかない。デジカメで撮った、フォトデータや短い動画は、帰ってきて、フェイスブックにアップするが、録音した会話は、動画にしてユーチューブにアップするかどうかは未定です。各種充電器を忘れないようにしなければ。
本編
【小渕沢行(1)】2024.06.03
2024年6月3日、小渕沢の高原旅館に2泊予約して太田氏の庭でイーゼルを立てる予定で、始発のバスでアトリエを出る。新宿発の特急あずさには時間の余裕がタップリあるが、待ち時間に朝食やタバコで時間をつぶす考えだ。朝食は時間が早いので、駅構内の食堂の開いている店が少ない。開いている駅そばの店に入った。店は新しく、私はスイカとタッチパネルの券売機で注文しようとするのだが、タッチパネルの選択で、うまく目的の画面に進んでいかない。ちょうど、近くにいた店員に聞いて、そして、その店では券売機が2台並んでいて、買う人が少ないのでその店で食べたが、新式のタッチパネルをこなせない人や、外国人は便利さの恩恵は受けられないなぁ。新宿駅も、出口の多さと、京王線、小田急線、地下鉄と複雑怪奇で構内の看板を見なければ、目的のホームにたどりつけないだろう。スマホやパソコンで使いこなせない老人や、地方の人や外国人は、駅そばを食べて、一服して、指定した列車に乗る(これもみどりの窓口がない駅では券売機をつかう)ことは、付き添い人がなければ無理だろう。私は昔、泣きながら独力でぱパソコンを使いこなせるようになったので、現在の世間のシステムにもついていけるが、この現在のシステムを使いこなせるスキルを持たなければ、情報難民になるであろう。
【小渕沢行(2)】2024.06.03
今は、特急の自由席がない。だから、自分の未来の行動のすみずみまで指定されるし、その指定席をあらかじめ取っておかなければ、スムーズに、予定通り移動できない。その分、トラブルや、予定変更もないのだが、私の過去の、多くの忘れられない旅の体験の記憶は、そして、そのトラブルを乗り越えてきた自信は、老いた現在の私の身心を形作っている。しかし、人生はそもそも予定通りにはいかない。自分の都合だけで、人生上の良い指定席を手にいれることはできないのになぁ。
太田氏とは、小淵沢駅で初めて会う。10時頃小渕沢駅に着いて、チラッと改札付近を見たが、それらしき人物がみつからない。みつかれば、改札内からトイレにいくからと知らせたのだが、また、改札を出ると外のトイレの場所も知らないので、トイレをすませてから改札を出た。ナサケナイが年寄りはトイレが近い。
一連の行動に、私は何も心配していない。だって、携帯もお互い持っているのだもの。改札付近にも、それらしき人がいないので、階段を下りたら、上ってくる太田氏と出会った。
太田氏は、私がナカナカ改札からでてこないので、かなり焦っていたようだ。顔つきにホッとした様子があらわれている。昭和生まれには、待ち合わせの場所や時間のズレは日常茶飯でトラブルとも認識していない。若い世代は、こんな些細なことにも、心配するのだなあ。
【小渕沢行(3)】2024.06.03
太田氏の車で、彼の自宅まで送ってもらう。駅からかなりの距離があって、特急は停まらない長坂駅がいちばん近い駅だ。着いてすぐに、イーゼルを立てる場所を探して写真を撮る。写真に日付と時間を写し込んだので、後のデータ保存に役立つ。フィルムカメラの時は、撮るのも保存も大変だったなぁ。10時半頃から1時間、庭を歩き廻り、11時25分、イーゼルをセットした。描写途中に、太田氏が私の写真を撮り、送ってもらったので、その中のいい写真(玉野で背中を痛めてから、姿勢が悪くなったので、なるべくそれが目立たない写真)を入れてアップします。
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終わって、山国の驟雨の中、この日と翌日宿泊する、小渕沢駅近くの高原(こうげん)旅館に送ってもらい、夕食を共にした。食後、室にコーヒーを2つたのみ、太田氏と10時頃まで話し込む。いつものとおり、私の一方的な独演会だったが、老いると、話を聞いてくれるだけで、うれしくてマイアガるのです。
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![]() 庭の小径(1)/F15号/油彩/2024年 |
【小渕沢行(4)】2024.06.04
2024年6月4日、旅館の朝食を7時に食べ、タクシーを呼んでもらって太田氏の家につく。ゴルフ場のそばの分譲別荘地の道は分かりにくく、しばらくタクシーでウロウロしたので、タクシーの名札をみて、帰りの迎えを予約しておく。
今日は、O氏はいない。麦茶が用意され、トイレや洗面所も使えるように、鍵も預かっている。
イーゼルをセットする場所を探す。庭も家も、斜面にあって、1階のベランダの基礎はかなり嵩上げしてある。庭を見おろすアングルで、ベランダの端にイーゼルを立て、9時14分から描き始めた。天気も良く、陽のあたる庭の光と、さまざまな野鳥のさえずりにつつまれて、無心に筆を走らせる、まさに三昧境だね。眼前の世界はこうなっているし、画家はそれをキャンバスの上に変換定着させる。歴戦の勇士の老画家は、眼前の美しさを成す構造〔光と空間〕を、キャンバスに変換定着させるスキルは磨き、持ち、衰えてはいない。むしろ、いまだ成長している。画家になってよかった。
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![]() 庭の小径(2)/F15号/油彩/2024年 |
【小渕沢行(5)】2024.06.04
2024年6月4日、11時11分に一枚目のキャンバスを描き終えた。太田氏の用意されていた麦茶を室内でいただき、タバコを外で一服。時間はまだ、タップリある。しかし、年だねぇ、立ちっぱなしで、15号のキャンバスを埋めると、持ってきたもう1枚のキャンバスを埋める気力が湧いてこない。つい、「もういいか、ボクちゃんトシだもんネ」という、自分への甘えの言い訳が心に浮かぶ。
外だと、こんなとき休息場所がない。だが、今日は太田氏の居間が使える。居間のソファーで横になって、そのうちに、短時間だが眠って起きると、少し体力が復活、タンペラマン(画家魂)を振り絞って、2枚目の白いキャンバスに対面した。12時49分から描き始め14時23分にイーゼルをしまう。画面はまだ途中で、全てを埋められなかったが、アトリエで完成させればいいヤ。結果、いい絵になればいいのだから。この絵に手をつけ完成させなければ、この絵はこの世界に存在しないのだから。
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![]() 庭の小径(3)/P15号/油彩/2024年 |
【小渕沢行(6)】2024.06.04
旅館まで、帰りのタクシーの中からの風景が目に入る。車窓左手に南アルプス山脈では有名な甲斐駒ヶ岳が見える。手前に田んぼがあるので、稲が黄色くなる頃に、描きに来ようかなぁ。この風景は、児島善三郎の『アルプスへの道』の絵を思いだす。アトリエに帰ったら、ネットで検索してみよう。
旅館での夕食は、夏は日本酒のオンザロック、冬はお燗して一合飲むのだが、この日は、ビールを一本追加した。
(写真は、ネットで検索し、キャプチャーした児島善三郎の『アルプスへの道』)
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【小渕沢行(7)】2024.06.05
2024年6月5日、今日の予約しているJR小渕沢駅発の特急あずさの時間は、10時52分。朝食後、画材を梱包して玄関の隅におき、着払い宅急便の集荷を旅館のご主人にお願いしておく。集荷の依頼とラベルはすでにアトリエを出る前に、運送会社にパソコンで集荷依頼をしてある。こんなことも、何度かの、取材旅行の経験で身につけた。
部屋で、ICレコーダーにメモ代わりの総括の録音をして、時間は早いが、10時頃旅館を出た。小渕沢駅の周りを散策すると、本屋があった。地方の本屋は、その地元だけのゆかりの歴史や写真集があるので興味がある。今回は店には入らないが、次回来る時にさがしてみよう。坂を少し下ると、途中からすぐに田園風景になり、遠くに駒ヶ岳が見える。この付近もゆっくり取材してみたい。これは、もう一度ここに来ることになるなぁ。
小渕沢駅のホームから、富士山も見えた。
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エピローグ
『画中日記』2024.06.05【小渕沢行より帰柏】
今日の、10時52分小淵沢駅で特急あずさに乗り帰柏、アトリエでまず太田氏にお礼のメッセージを送った。
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今、柏に帰りました。昨日は2点描きました。午前中1点描いて、もう1点どうしようかと逡巡しましたが、貴方の置いていてくれた鍵のおかげで、ソファーで短時間休息、ウトウトもして、午後からもう1枚にも手をつけました。歳のせいで、画面を全部埋めるまではいきませんでしたが、まあ、こちらで完成させるのには支障はないでしょう。
明日から、『小渕沢行』の題名でこの2泊3日のデータを、フェイスブックにアップしていきます。絵が完成すれば、撮したフォトデータ全部と、テキストデータと完成作までの作品データを、テキストデータに【岡野岬石の資料蔵】にアップします。
とりあえず、とにかく、ありがとうございました。
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明日から、こちらでのルーティンに戻ります。明日は、旅館から発送した荷物の整理と、7月1日から始まる、『第8回イーゼル画会展』のDMの発送。